さだまさしのベスト・アルバム「天晴~オールタイム・ベスト~」(フリーフライト/ユーキャン/ユニバーサルミュージック)がビッグセールスになっている。オリコン週間アルバム総合チャートは初登場7位だったが、その後も9位→7位ときて、7月29日付では第3位にランクされた。さだのアルバムがオリコン総合チャートでベスト3入りを果たしたのは83年1月10日付で3位にランクされた「夢の轍」以来、実に30年7ヶ月ぶりだという。ただ、今回はCD3枚組。初回盤はDVD付で4500円と言う高額商品である。そういった意味では快挙と言ってもいいだろう。
このアルバムはデビュー40周年。そして7月17日に日本人アーティストとしては初めて達成した4000回目のコンサートを記念して制作、発売されたもの。前記した通りCD3枚組(現在は通常版の発売で3800円)。
アルバムには、40年の間にさだが書き下ろしてきた500以上もの作品の中から選んでいる。しかも、その選び方はユーザーによる “人気投票” だった。ユーザー=ファンが聴きたいと思っている名曲、ヒット曲を選りすぐり、それぞれを「こころ」「とき」、そして「いのち」の3つのテーマに分けて収録している。
――その中には「精霊流し」や「無縁坂」など “グレープ” 時代のヒット曲はもちろん、ソロになっての代表作「関白宣言」「雨やどり」はもちろん「案山子」「主人公」など、ファンの間では1、2位を争う人気作品から、映画化も決まった「風に立つライオン」、さらに山口百恵(現三浦百恵)に提供した「秋桜」など、これは…と言う作品ばかり39曲盛り込まれている。
東京・池袋の東武百貨店内にあるレコードショップ「五番街」の販売担当者に聞いたら「さだの根強いファンばかりではなく、今回は60代の人が手に取って買っていく。これまでの購買傾向とはちょっと違っていた」と言う。さだの “アンテナ店” としても知られるレコードショップの販売担当者も感心するのだから、やはり今回のセールス動向はこれまでとは違うのだろう。
昨年は20周年を迎えたMr.Children、さらには山下達郎、松任谷由実などベテランのベスト・アルバムが売れまくった。CDセールスが低迷する中で「大人が聴ける音楽」は、モノによっては売れると言うことだろう。もちろん、さだの場合は、コンサート4000回達成なども含めテレビやスポーツ紙などメディアでの露出展開が多かったこともセールス拡大に結び付いたと思われる。要は「聴いてみたい」と思わせる状況、ムード作りが功を奏したと言っていい。
音楽というのは劣化することはないものである。そればかりか時代によって変化しながらも残り続ける。その時は何も感じなかったものが、10年、あるいは20年経ってから琴線に触れることだって多々ある。
しかし、ここ数年の傾向で言うと若い層の音楽の聴き方は「消費型」だ。ヒット曲を、その場だけ楽しめればいいと思っている。しかも、YouTubeであっても「聴ければいい」と思っている感じだ。
本来、アーティストにとってシングルは名刺代わりの産物であって、アルバムの中で自らの音楽性を勝負してきた。だからヒット作品はシングルであっても、多くの名曲やスタンダード作品と言うのはアルバムの中に収録された作品が多い。さだの作品で何年も人気投票1、2位を争う「案山子」「主人公」もシングルにはなっていない。そういった意味で考えるとベストアルバムがバカ売れして、オリジナルアルバムのセールスが伸び悩む今のユーザー傾向には空しさを感じる。
いずれにしても、さだの「天晴~オールタイム・ベスト~」が売れている背景こそが今の音楽産業の現実だろう。宮崎駿監督「風立ちぬ」でユーミンの作品が改めて注目されるのも「なるほど…」と思う。今や日本の人口で40歳以上は7000万人を超える…。そう言った中で日本の音楽マーケットは米国を超え、世界一位になった。その現実の中で、CD低迷とは言うものの、まだまだ日本の音楽産業は伸びていく可能性を秘めていると思う。
因みに、さだのアルバムについて関係者は、現時点でのCDはレコードショップなどの店頭売りが中心だとか。コンサート会場などでの販売は7月17日の東京・日本武道館から本格的にスタートしたという。それだけに今後は「コンサート会場などでの即売が増えてくるのでセールスも伸びるはず」と意欲を見せていた。
(渡邉裕二)