【Vol.10】スバル座で『さよなら渓谷』を見た観客の反応
2013年07月05日
都内ロードショー館に前月の月計を聞くのが、私の月初の業務の一つですが、スバル座の方から興味深い話を聞きました。
スバル座では、6月22日から『さよなら渓谷』を上映中。1週目が興収370万円、2週目が300万円台半ばの見込みで、なかなかの数字。2週目の落ちが小さいのは、7月1日のサービスデーに加え、モスクワ国際映画祭での審査員特別賞受賞の効果が大きく貢献したのは間違いないでしょう。
さて、興味深いというのは、スバル座で本作を見た観客の反応。評論家らの本作に対する評価は総じて高いのですが、スバル座に来場した観客の声は、必ずしもそうではないそうです。
上映の途中で帰ってしまう人も、これまで何人もいました。中には、始まってから僅か20分ほどで出てきてしまう50代くらいの夫婦もいたとか。途中退席の人からも、最後まで見た人からも「話が分からない」「誰にも感情移入できない」といった言葉が漏れてきます。1人や2人ではなく、相当数の人がそのような反応を示しているのです。
本作は確かに、過去と現在が入り交じり時系列がやや複雑であり、かなりシリアスなテーマを扱った作品ではあります。
来場者の多くが、新聞の映評での高い評価を見て、また、受賞の話題性から是非見たいと思って、を来場の動機に挙げています。スバル座の特徴でもある中高年の観客が、受賞の話題性で足を運んではみたものの・・・という場面が想像できます。有料入場か、招待券入場か、といったことも影響しているかもしれません。
他の劇場はどうなのか気になり、都内のもう1館、新宿武蔵野館に尋ねると、途中で帰ってしまう人はいないし、話が分からないという声も上がっていないとのこと。
映画館によって、一つの映画をめぐって、こうも違う反応が表れるとは驚きであり、やっぱり面白いなと思った次第。
松本 貴則(まつもと・たかのり) 映画部デスク 兼 サイト事業部所属
2000年、シネコン担当記者として入社。その後、配給会社などへも取材範囲を広げるが、取材のベースは興行に置いている。2011年から映画部デスク。趣味はスポーツ観戦、読書。