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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.77】
「ももへの手紙」、途方もない冒険へ出でよ

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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.77】
「ももへの手紙」、途方もない冒険へ出でよ

2012年04月24日
 今年のGW興行は、そのGWに入る前に、ほぼ一つの傾向が固まりつつある。優勢の邦画に、劣勢の洋画という“構図”である。その差が、とくに広がりつつあると言えようか。ただ私は、このGW興行に関しては、別のことに強い関心をもっていた。それは、“オリジナル”アニメの行方である。

 4月21日から公開された「ももへの手紙」は、人気コミックなどのアニメ化ではなく、純粋にオリジナル作品として製作されたアニメだ。いわば、認知度の全くない題材であり、そこからスタートしたアニメの重要性とその成果に、私は多大な関心を抱かざるをえなかったのである。

 その「ももへの手紙」を見るべく、4月22日に新宿ミラノ2に赴いた。かつての新宿東急である。午後4時30分開映の回で、前の回は相応の入りであったように見えたが、この回はいつもの歌舞伎町での集客の厳しさそのままであった。ただ客層を見て、ハッとした。20代の男女が意外に目立っていたのである。この層が来てくれると、本作の客層は広がる気がした。

 これは、土日(21、22日)の興行の推移にも表れていた。土曜日はファミリー層やいささか年齢が高い観客中心だったものが、日曜日になり、若い観客が増えてきたというのである。具体的には、21日=動員2万5637人・興収3231万1700円、22日=3万6271人・4519万8900円だった(スクリーン数は276)。この動員増のなかで、若い層の集客が広がったとみられる。

 残念ながら、スタート時の興行自体は満足のいくものではないだろう。オリジナルアニメの浸透度、認知度と、そこから生まれる関心度が、既存の人気コミックのアニメ化などと比べて、数段劣るのは当然である。だから、スタート成績から今後の推移のなかで、関心度はいかに広がりを見せていくか。あるいは、その広がりは限定的なもので終わるのか。その見極めのなかで課題を見出し、次につなげていくことが強く求められる。

 中身に関して、一言。予告編などで奇妙に感じられた妖怪たちのくすんだ色彩のシーン(アンチ・スタジオジブリとも言える)の意味が、本編を見ると深く理解できる。その意味はラストで描かれる主人公のある行動にあり、これこそが本作の大きな見どころであるのだが、ここではこれ以上書き連ねない。劇場で、しかと見ていただこう。

 「ももへの手紙」を見ながら、スタジオジブリの現在は、一朝一夕に作られたのではないことを思い出した。一つのことを成すためには、途方もない冒険と努力が必要なのである。本作の次にも期待したいと、私は思う。

(大高宏雄)

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