「暴力団排除条例」と「紅白歌合戦」
2011年11月24日
来週にも発表されるという「第62回NHK紅白歌合戦」の出場者が注目されている。
と言うのも、先月(10月)1日に全ての都道府県で施行された「暴力団排除条例」で「暴力団と関係の深かった歌手が落選する可能性がある」といった情報が業界内を駆け巡っていることが注目度を増す要因となっている。しかも、NHKの松本正之会長が「紅白」出場歌手の選考について「万が一でも暴力団との関係が判明した場合は出場を解除する」なんてことを言うもんだから余計に気にしてしまう…。
今年の「紅白」は、10月の始めに応援団として、いち早くAKB48とテリー伊藤の起用が発表され、その後、司会者に人気アイドル・グループの嵐と女優の井上真央が決まったことから、視聴者の関心は「例年以上」。特に、司会者の発表後は異常な盛り上がりとなっており、観覧希望者は過去最高の126万4923通。これまでの最高は、04年の75万9722通だった。一気に50万通も増えた格好だ。
こういった視聴者の盛り上がりの一方で業界内に暗い影を投げかけているのが「暴力団排除条例」の施行後のNHKの動きというわけだ。要は、“闇社会”との関係を断ち切れない芸能界の面々に向けられたもので、しかも「今年の『紅白』の出場者が民放テレビ局にも大きな影響を与える」と言われていることも大きい。
それにしても、条例施行で、NHKや民放連に対して警察庁から「リスト作成の通達があった」とか、NHKは「紅白」出場者の選考にあたって「(問題となる歌手を)リストアップしている」「身体検査を始めた」とか…。連日、NHKの現場の混乱ぶりが報じられている。
では、今年の「紅白」はどうなるのか?
ハッキリ言って「巷で言われているような暴排条例による落選歌手はない」と断言したい。
だいたい、今回の条例自体にも問題があるが、この問題は一歩間違えたら人権にも関わりかねない非常にナーバスなものだ。正直言って、犯罪性もない中で、NHKが(暴力団と)単に付き合っていた、関係が深いということだけで落選なんかしてしまったら大変なことになる。そもそも、NHKが「紅白」出場に対して念書を交わすこと自体にも問題がある。単なる責任逃れに過ぎない。そもそも、現実的に言ってNHKに、そんな「決断」も出来るはずがない。
いずれにしても、そういった判断を警察がNHKに求めていること自体が道理に合わない。歌手だって自ら辞退なんかしたら逆に疑われる。
今年の「紅白」は大震災からの復興とか支援をテーマにしており「歌で元気づけよう…」と言っている。そんな中、こんなことで右往左往しているようでは情けない。趣旨に全く合わない。
いずれにしても演歌勢の出場は堅いだろう。が、そうも言っていられない事情もある。今年は、例年と違ってテーマも鮮明なだけに出場歌手も変わってくる。そういった意味で考えたら、暴排条例なんかとは関係がなく出場枠で演歌勢が厳しい。
今年は芦田愛菜はもちろんだが、松任谷由実や長渕剛、さらには松田聖子も10年ぶりの出場が内定していると言う。他にも千昌夫やさとう宗幸といった被災地出身の往年の歌手も出場が噂されている。そういったことから当然、出場枠も限られてくる。そうなったら「演歌歌手や当落すれすれの歌手にとっては暴排条例なんかで外されると言うより、当落線上で争って落選する方がよっぽど気になっているはず」といった声も出てくる。
今年は万が一、当落線上で落選なんかしても風潮的に疑問を持たれかねない。いくら潔白でも何を言われるか分からない…。
(渡邉裕二)