11月19日から公開された「アントキノイノチ」は、映画界今年最後の興行を担うような意味の大きな作品であったと私は思う。ただその興行スタートは、11月19、20日の2日間で、動員7万4280人・興収9357万7500円だった(230館)。これが、どういう数字かというと。
同じ松竹配給の「一命」より、いいスタートである。「一命」は、スタート2日間で7万2858人・8702万4700円だった(460館)。11月20日現在、「一命」は4億4143万5500円を記録している。最終で5億円は難しいだろう。「一命」と比較して単純に言うなら、「アントキ~」は5億円を超え、平日の成績いかんでは、6、7億円あたりまでの興収が見込まれるということになる。
もちろん、これでは物足りないだろう。今のところ、10億円に届かない可能性が高い理由として、例によっていくつかの要素が複合的になっていると思う。一つに、いったいどういった作品であるのか、その外観(浸透の過程でうかがい知れる)が、少し曖昧であった気がした。「おくりびと」風な要素があれば、トラウマをかかえた者の恋愛作品的な感じもある。これに、戸惑う人もかなり多かったのではないか。
若い層を狙ったとは思うが、作品の外観からにじみ出ていた決定的な “重い雰囲気” が、若い層の関心を少し遠ざけた気もする。「おくりびと」風な関心を広めるのは難しい作品であったろうが、もうちょっと柔らかさをまとった人生ドラマとしての側面をプッシュできなかったか。
あと、これはもっとも重要なポイントだと思うが、タイトルのインパクトの無さである。タイトルに関しては、「一命」のときも指摘した。つまり、「アントキノイノチ」というタイトルから、インスパイアされるものが、実に少ない気がしたのである。カタカナ表示も、良くない。要するに、見たい意識をあおる想像力の喚起が、そこからはうかがえなかったのである。
原作がそのタイトルだから仕方がないというもっともらしい理由があろう。しかし、本と映画は違う。そろそろ、映画も原作タイトルから離れて、別のものにしてもいいのではないか。原作者にその違いをはっきりと納得させるくらいの迫力が、製作側にほしいと私は思うのである。
(大高宏雄)