テアトル新宿など全国19館で、11月12日からスタートした「恋の罪」(監督・園子温)が、好調の出足である。12、13日の2日間では、19館で動員8383人・興収1269万3750円を記録した。とくにテアトル新宿では、朝から立ち見の回が続出し、2日間で1727人・294万3700円を記録した。
注目すべき興行だと思う。園子温監督の作品は、今年はじめに公開された「冷たい熱帯魚」が健闘している。新作の「恋の罪」は、「冷たい熱帯魚」よりいいスタートを切っており、全国興収で1億円超えも期待される。
「恋の罪」は、渋谷で起きたOL殺人事件を題材に、女性たちの性と生を過激に描く作品である。過激さの点では共通性はあるが、バイオレンスと性描写のえぐさがより前面に出た「冷たい熱帯魚」と比べれば、本作のほうが女性層の動員が顕著になっているという。この女性層の関心の高さが、客層の広がりを実現した。これが、今回の興行で注目すべき大きな点でもある。
バイオレンスであれ、性であれ、それらを内包し爆発させていく人間の過激な生きざま(懐かしい言葉だが)が今、何らかのインパクトをもっているのだろう。時代の底部にうごめく人間の精神と行動のぎりぎりのありよう。少し紋切り型の言い回しになるが、これが様々な事象が薄っぺらに見えている今の時代に、とても貴重な試みのように感じられるのだと思う。
「恋の罪」で言えば、女優たちの熱い演技魂も、興行に大きな役割を果たしている。本気で、体当たりで、過激演技に果敢に挑戦する女優たち。それを引き出しているのは監督の力量なのだが、その演出と演技の強いエネルギーが人々に伝わり、関心の高まりにつながっていくのだろう。再度言うが、女性の観客にそれがある程度通じたことが今回、非常に重要だと思う。
テレビ局が中心になって製作する万事に毒が薄められた作品とは、対極に位置する作品“群”だと言われる。テレビ局はもちろん、大手の作品からも“不良性感度”が希薄になった今の時代において、独自の娯楽作で地道な歩みを進めてきた日活が、この2作品を連発したことの意味は非常に大きい。
この過激“路線”から、よりスケールの大きな作品が、今後も続々と生まれることを希望する。内容面、興行面における邦画の一元化を食い止める意味からも、それはとても重要なのである。
(大高宏雄)