やはり、有線放送は演歌が強い。
有線放送の最大手、キャンシステムが発表する有線放送・全国ランキングで1位=水森かおり「庄内平野 風の中」、2位=氷川きよし「情熱のマリアッチ」、3位=大月みやこ「女…さすらい」。何と、トップ3が全て演歌で独占された。
倖田來未「愛を止めないで」や福山雅治「家族になろうよ」、西野カナ「たとえ、どんなに…」、AKB「フライングゲット」など、数多くのポップス系ヒット曲を押しのけての露出展開である。
「有線放送だから…」と言ってしまえばそれまでだが、喫茶店や食堂、夜の飲み屋街で…、自然に耳に入ってくる、聴こえてくる有線放送には、やはり潜在的な影響力がある。当然、演歌に限らずポップスや洋楽曲でも、有線放送への「リクエスト」や「問い合わせ曲」は気になるところだ。
それにしても、有線放送と言えば氷川きよし。今年の前半は「あの娘と野菊と渡し舟」がトップを独走してきた。そして、後半は「情熱のマリアッチ」となるが、注目されるのは今回、1位となった水森かおり「庄内平野 風の中」。この曲は、紆余曲折の中で支持されてきた作品だった。
水森は、言うまでもなく“ご当地ソングの女王”の異名を持つ。デビュー16年目を迎える中堅の演歌歌手である。その彼女は99年の「竜飛岬」から「尾道水道」「東尋坊」「鳥取砂丘」「釧路湿原」「五能線」「熊野古道」「ひとり薩摩路」…。今回の「庄内平野 風の中」で“ご当地ソング”としては何と12作目となる。
しかし、同曲は当初、山形県庄内地方に広がる「出羽三山」(月山、羽黒山、湯殿山の総称)を舞台とした「出羽三山 風の中」だったが、その後、現在のタイトルに変更されたと言われる。ところが、発売を20日後に控えた3月11日に東日本大震災が起こったことから、発売日が6月1日に変更された。まさに難産の中から生まれた作品とも言えなくもない。
だが、有線放送では6月3日付で1位にランクされた。2週に亘って1位を獲得した。が、6月17日付で首位をAKB48「Everyday、カチューシャ」に奪われた。さすがにAKB48の総選挙などの話題にはかなわなかった。しかし、その後も上位をキープし続け、8月5日付で1週だったが再び1位に返り咲いた。そして、今回、10週間ぶりに3度目の首位獲得となったというわけだ。
いずれにしても同曲の息の長さはポップス曲では考えられないものがある。
ポップス曲は、それこそ連続ドラマと同じで「ワンクール」。とにかく大量生産、大量消費である。(芦田愛菜と鈴木福が歌った)薫と友樹、たまにムック。「マル・マル・モリ・モリ!」のような曲もあるものの、今年の前半にヒットした作品と問われると急には思い出せない。世の中の流れが速いと言ってしまえばそれまでだが…。
それにしても、ポップス曲やニューミュージック、フォーク、ロックだって70年、80年、90年代のヒット曲、名曲はコンピレーション・アルバムになって、ここ数年というもの好調な売り上げになっている。中森明菜や徳永英明のカバー・アルバムなどは、それこそ100万枚を突破したほどだ。
以前も書いたが「歌は世につれ、世は歌につれ」という言葉がある。もちろん、有線放送だけを見て、全てを語るつもりはない。が、演歌にあってポップス、ロックには失われたものが何かあるんじゃないか?と、つくづくと思う。少なくとも、演歌の歌手は1曲を大切に息長く歌おうとしている。
今こそ演歌に学ぶところがあるんじゃないだろうか…
(渡邉裕二)