「歌は世につれ歌につれ」という言葉が好きである。
要は、歌謡曲などポップスを含め流行歌というのは その時代その時代を映し出し、そしてまた歌謡曲や流行歌が時代を作り出していく…ということだが、今や、その言葉を使う人は少なくなった。「死語」になった感すらする。
僕たちの世代は70年代、80年代の曲を聴くと、その時代の光景を想い浮かべる。
ちょっと前の世代――60代のフォーク世代。権力と闘っていた時代は「俺たちの求めるものは!!」と歌っていた。しかし、東大紛争で権力に押しつぶされると、若者の音楽は「四畳半フォーク」に変わり、かぐや姫「神田川」や「赤ちょうちん」、さらには井上陽水「傘がない」といった曲へと変貌していった…。歌は世相を反映していた。
そう言えばテレビの音楽番組も多かった。NHK、民放テレビ局を含め連日、ゴールデンタイム、プライムタイムには歌謡番組があった。70年代の後半には、それまでの「夜のヒットスタジオ」(フジテレビ)に加え、「ザ・ベストテン」(TBS)や「歌のトップテン」(日本テレビ)といった、それまではラジオのお家芸だったチャート番組までテレビに登場、それこそ各地からの中継を交えてヒット曲が放送され30%を超える視聴率を獲得していた。当然、年末の「NHK紅白歌合戦」は60%を超える視聴率を獲得していた。今とは全く違う…。
ヒット曲のピークは97~98年ぐらいだった。確か、レコードの生産実績は6000億円を超えていた。それが99年を境に減少し、僅か12年で半減してしまった。今のレコード産業の売上げは30年前に逆戻りしてしまった。90年代「メガヒット」なんて言葉が生まれた。が、今、そんな言葉も「死語」になってしまった。「宇多田ヒカルのアルバムが840万枚」なんて、もはやあり得ない売上げだろう。
もちろん、CDが売れなくなったからと言って、決して音楽がなくなってしまったわけではない。音楽人口が減少したわけでもない。貸レコード、音楽配信…。単に「音楽の聴き方が多様化した」だけ。というのも、音楽配信は「違法ダウンロード」が増加傾向にあり、その影響が深刻化しているほどだ。
しかし、時代とともに明らかに失われつつあるのは「歌は世につれ歌につれ」と言われる音楽かもしれない。世代を超えた歌が明らかに数えるほどとなった。
果たして…。今年の上半期を振り返ってピンとくる曲がどれだけあるか?
AKB48の「桜の木になろう」「Everyday、カチューシャ」がミリオンになったからといっても「あ、そう」と言った程度。いやいや案外、薫と友樹、たまにムック。「マル・マル・モリ・モリ!」が、子供たちの間で話題になったことの方がインパクトがあるかもしれない。が、どっちにしろ “志向限定ヒット” といった感じである。
世相を反映していると言ったら、いきものがかり「YELL」や「ありがとう」かもしれない。これは両曲ともに東日本大震災によるものが大きかったからだ。震災の被災地の中学校や高校が「卒業式に備え歌の練習をしている時に震災が発生した」ということがインフォメーション効果となった。
いずれにしても、40~60代の世代というは70~80年代の曲を聴き、その時代を共有しながら懐かしむことが出来る。では、今の10~20代というは20~30年後に果たしてどんな曲を聴いているのだろうか? どのような曲を聴いて青春時代を懐かしむことが出来るのだろうか? そんなこと余計なことかもしれないが…。
音楽は好みや価値観など聴く人によって大きく違うものだろう。だけど、いい歌は “言霊” となって世代を超えて心に届くものだと思う。「歌は世につれ歌につれ」という言葉が完全に消え去ってしまったとは思いたくないものだ。
(渡邉裕二)