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路上ライブで満足!?

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路上ライブで満足!?

2011年05月24日
 彼女は、湘南・藤沢生まれの、藤沢育ちのシンガーソングライターだった。

 彼女とは、つじむらゆみこ。現在28歳である。

 「初めて藤沢でホールコンサートをやるから観に来て欲しい」。

 知人の音楽関係者から何度も電話を貰ったので観に行った。

 会場は藤沢・湘南台文化センター・市民シアター。キャパ600人のホールである。

 彼女は、この4月から毎週日曜の12時からFMヨコハマで、あの積水ハウスがスポンサーについて「積水ハウス ソラノヲト」。さらに火曜21時からはコミュニティーFMであるレディオ湘南FMで「このまちにうまれて」という番組がスタートしたそうで、地元ではそれなりに有名だった。周囲も力が入っていた。

 その彼女が、今回のホールコンサートを行うことになったキッカケは、昨秋発売された5曲入りのミニ・アルバムCDだった。スタッフから「500枚売れたらホールコンサートをやろう…」と言われ、彼女は奮起した。藤沢市内ではもちろん逗子、鎌倉、茅ヶ崎…。湘南の各所で精力的な路上ライブを繰り広げた。その結果、2月9日、JR茅ヶ崎駅前での路上ライブで目標の500枚セールスを達成。念願のホールコンサートを実現することが出来たのだと言う。

 この話を聞いて、あるバンドを思い出した。

 彼らは、湘南ではないが横浜出身の4人組。そして、彼らも横浜市内や都内で路上でライブをやっていた。そんな彼らの運気を変えたのは今から6年前。あるロックグループのメンバーの目に止まった。そこで彼らに、一つの戦略として沖縄に行くことを提案した。「音楽活動をするならまず沖縄で成功させろ」というわけだ。

 彼らは「RA‐SE Sounds♪(ラースサウンズ)」というグループ名で沖縄の音楽プロダクションに所属し、合宿生活をしながら那覇・国際通りで路上ライブを行った。すると、沖縄県内で瞬く間に大人気のアイドル・バンドとなった。沖縄限定で2枚同時発売したインディーズのシングル「桜色の季節に君だけを想い君だけのために奏でる恋の詩」と「コロンブス」は、2枚合わせて4万枚も売り上げ、那覇市のタワーレコードでは売上げ1、2位にランクされた。凄まじい売れ行きだったと言う。

 彼らは、CDを売った「ご褒美」として那覇市内のライブハウスでもライブを行うようになった。しかも、琉球放送ではラジオとテレビでレギュラー番組まで持たせてもらい沖縄県内では高視聴率・聴取率を上げた。

 実は、沖縄と言うのは不思議な場所で、地元の子は沖縄出身のアイドルに対しては冷めているが、その反面、内地のアイドルには興味を抱いていた。そういった意味でRA‐SE Sounds♪というのは、横浜から来たアイドル・バンドとして受け入れられたようだ。しかも、彼らが路上ライブに選んだ国際通りは観光のメッカ。「路上ライブをやってみて驚いたのは、CDを買ってくれる人の6、7割は沖縄に修学旅行に来た女子高校生や旅行客だったんです」と彼らは言っていた。要するにCDを沖縄のお土産代わりに買っていくケースが多かったと言うのだ。

 もっとも「横浜のバンドが沖縄で成功するのは初めてのケース。沖縄というとロックのバンドが多いだけに、アイドル的な要素を漂わせたバンドは逆に新鮮に思われたのでは…」と地元の音楽関係者は分析していた。そういった人気を肌で感じたのだろう、彼らは「まだまだです。もっと沖縄で実力をつけたいし、路上ライブを頑張っていきたい」と意欲を見せていた。

 一方、つじむらも「路上ライブをやってきて、これからの自分が向き合う場所が分かった」と意欲を語っていた。

 正直言って、彼女の、その言葉を聞いた時、RA‐SE Sounds♪の言葉を思い出した。実際、彼らは昨夏、元グラビア・アイドルの小阪由佳が「好きなアーティスト」と上げ、彼女との関係が一部で話題になったが結局、路上ライブと沖縄だけの人気で終わってしまった。というより、結果的に路上ライブで満足してしまい、そこから脱出出来ないまま終わってしまった。

 つじむらも、確かに彼女が藤沢で生まれ育ってきたことを大切にしたいということは分かる。しかし、路上ライブで「これからの自分が向き合う場所が分かった」と、ちょっとでも満足してしまっているのなら、あるいは音楽業界で今後、大きな飛躍は望めないのではないかと…、そんな危惧のようなものを抱いた。

 彼女は声質もいいし、いい曲を歌っている。「路上ライブ」が悪いわけではないが、そこで満足せず、今回のホール・コンサートを大きなキッカケにして、もっと貪欲に、そしてステップアップした活動を望みたい

(渡邉裕二)
 

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