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●「ユニジャパン・エンターテインメント・フォーラム@香港」
アジアの国際共同製作には、「信頼」と「柔軟性」が重要だ
3月22日午後、日本経済産業省とユニジャパン主催、香港貿易発展局共催セミナー「ユニジャパン・エンターテインメント・フォーラム@香港」が開催された。
これは昨年の東京国際映画祭期間中に開催された「ユニジャパン・エンターテインメント・フォーラム」に続くもので、ここ香港では、アジア各国で活躍するプロデューサーたちが集い、国際共同製作をシュミレーションしながら、どうすれば互いの国が映画を支援できるかが議論された。
これまで東宝のプロデューサーとして約30本を製作し、中国では「赤い月」や「ゴジラ」、「ハゲタカ」などの撮影を行ってきた経歴を持ち、現在日本アカデミー賞事務局長でもある
富山省吾氏が進行役を務め、
香港のMathew TANG、中国のDongbing SHAN、韓国のJonathan Hyong‐Joon Kim、台湾のLi‐Fen CHIEN、そして日本の片原朋子(J&Kエンタテインメント)の6名のプロデューサーが登壇(上写真左から順に)した。
冒頭、ユニジャパンの
西村隆事務局長(写真右)が挨拶し、「韓国、香港も中国政府も積極的に国際共同製作への支援を進めている。日本でも5年前からJ-Pitchや、TPGという企画マーケットなどを支援しているが、具体的なアクションへの支援はなかった。しかし、いま国際共同製作支援への予算の準備を進めている。新会計年度となる4月からスタートする予定の日本政府の新しいファンドに期待しながらディスカッションをして欲しい」とした。
シミュレーション1:東アジア版「プリティ・ウーマン」
今回は、ジュリア・ロバーツ、リチャード・ギア共演のハリウッド映画「プリティ・ウーマン」を東アジア版としてリメイクするという具体的なプロジェクトが日本側から提案された。総製作費を600万ドルと想定し、各国で120万ドルずつ出資。そのうち100万ドルはリメイク権料とした。
富山氏のもと、「赤い月」「ゴジラ」「ハゲタカ」の現場に付き、近作「トロッコ」をプロデュースした
片原氏から「日本としては主役の2人のうち1人は日本人俳優でいきたい。監督は日本でも知名度のある人を望む」と切り出すと、
中国で海外との共同製作を手掛けてきた
SHAN氏は「予算はスター、監督次第。大陸だと男優が有名でないと困る。男優が韓国人、日本人であれば中国では難しい。ロケーションは3分の1くらいは中国で行わないと駄目。主演のひとりは中国のパスポートを持っていること。さらに検閲がかかる。ただ背景、設定は一つの都市である必要はない」
韓国で「シルミド」、日本の角川映画と「初雪の恋 ヴァージン・スノー」などを手掛けてきた
KIM氏は「5カ国で主演が二人しかいない。日本からは渡辺謙さんがいいのでは。いろんな国にアピールできる人。スクリプトを非常にいいものにしないといけない。女優さんも多くの国にアピールする人じゃないと駄目。500万ドルだと、平均の韓国の予算よりも上。3Dでいけるくらいの額だ。二人でいろんな国へは行かせられない。それに個人的にはヒット作をリメイクするのは好きではない。オリジナルを超えるものでないと。リメイクよりも新しいものを作った方がいい。その方が各国に向いていると思う」
「ドラゴン・キングダム」などを手掛けている香港の
TANG氏は「中国市場はブームで、ホットマネーがあるが、プロジェクトがない。公開された作品の90%くらいが儲かっていない。『プリティ・ウーマン』はいいプロジェクトではないかと思う。2つやり方がある。主役二人なので、100%中国映画にして、韓国・日本は出資で支援するのはどうか。中国でもボックスオフィスものがあるが、それぞれ自国でやれば儲かるわけで、中国ではバージョンによっては上映できないものがある。国によって変えるのはどうだろう。一見して香港映画のように作れば、各国で上映できるのではないか。ストーリーはいい映画。いろんな条件を考えないといけない。収益をどうシェアするかも課題だ」
台湾の
CHIEN氏は「これはなかなかまとまらないのではないか。台湾は共同製作をバックアップしている。支援面はよくやっているが、規制がある。台湾で撮影、スタッフの3分の1は台湾人で、スー・チーが主演女優にはいいのではないか」
とそれぞれ意見、要望が出された。各国の要望に応えるには様々なハードルがあるが、興味深かったのは各国ともこの想定プロジェクトに概ね興味を示したこと。もちろん各国の基準となるものを決めねばならないが、
富山氏が「これまでのシステムにこだわり過ぎず、新しいやり方で考えていくことも大事だ」とし、
片原氏は「困ったことに、本当に実現してしまうのではないか。みなさん、全然無理だと思われる人がいなかった。話を合わせていくと、一人二人抜けても成立してしまうのではないか。プロデューサーは楽観的であることも必要だ」と、実現性の高さに期待を寄せた。
契約書の問題
ただ、やはり難しいのは多国間で結ぶ契約書の取りまとめ方、まず言語とフォーマットが問題になるという。
KIM氏は「角川映画との『ヴァージン・スノー』の契約書は英語にした。問題はなかったし、補足をつける必要性を感じなかった」
SHAN氏は「中国のほとんどのプロデューサーは中国語を要求。でも、ジャッキー・チェンとジェット・リーが競演した『ドラゴン・キングダム』は英語の契約書。香港は英語か中国語。片方は翻訳し、最終的に英語が言い解決方法。補足があろうとなかろうと、根本は英語。問題は紛争が起きた時。どこの法廷でやるか。管轄権はどこになるのか。それぞれの裁判所の名前が入ってくるので」
CHIEN氏は「英語を使うが、それよりも“信頼”が一番必要。初めて台湾に来るクルーが多いわけで、だんだんお互い理解し合っていくが、まずは信頼が重要だと思う」
TANG氏は「私もそう思う。細かいことすべてを盛り込むわけにはいかない。でないとお金が管理ばっかりに行ってしまう。大規模になればなるほど必要。管理にかかるコストを最低限化しないといけない」
シミュレーション2:北方謙三原作「水滸伝」
それを受けて
富山氏は「キーワードは“信頼”と“柔軟性”のようだ。全ての予算を製作にかけていくことが大事。こういった形で進む、ある種の手ごたえは出てきたのではないか」とし、さらに「レッドクリフⅠ&Ⅱ」の大ヒットを例に挙げ、現在日本で売れている北方謙三原作「水滸伝」のアジア各国での共同製作の可能性についてシュミレーションを提案すると、
SHAN氏は「同じような本で沢山のバージョンがある。108のヒーローが出てくる話で、他のやり方があるのではないか。だから一部を選択する必要があると思う。一番いいのは、主要人物の5、6人が水泳が得意で、男優メインの非常に男っぽいものにする。中国市場はどんどん大きくなってきていて、中国投資家も1億元を超えることもあると思う」
TANG氏は「共同製作の可能性としては非常にいいと思う。ゲームなどでも、アクションものは香港でも人気で、各々の特技を発揮できると思う。いい企画ではないか」
CHIEN氏は「台湾でもマーシャルアーツの映画は受ける。投資家も喜んで出資し、ポテンシャルがあると思う」
KIM氏は「向いていると思う。『レッドクリフ』が成功したし、あれは3カ国の共同製作で作られたが、同じような状況で出来るのではないか。ジョン・ウー監督が関与したから成功したと思うが、同じように観客を引き寄せるやり方でいけるのでは」と、各国に好意的に受け取られた。
ハリウッドへ提案
また、東アジアで一緒にやった時に、ハリウッドの資本を入れるのはプラスになるのかとの富山氏の問いに、
TANG氏は「政府がお金が出してくれれば、歴史小説だから出来るのではないか。中国のバックグランドは変えられず、簡単ではないが、出来ないことはない」
SHAN氏は「『水滸伝』の登場人物の一人はアジア人とは違った風貌をしている。その先のマーケット、世界へ向かっていく上でいいと思う。一方で、ハリウッドのローカルプロダクションが増えてきている。年間10本くらい作られる可能性がある。アジアがまとまってハリウッドに提案していくことが出来れば面白い」
KIM氏は「20世紀FOXがかなり投資している。韓国では『チェイサー』の監督作品に出資し、残念ながら上手くいかなかったが、ローカルフィルムに関心を持っている。このプロジェクトをハリウッドに提案するのは問題ないと思う」
TANG氏は「中国も規制が緩くなってきている。クエンティン・タランティーノに監督をやってもらうのはどうだろうか。上手くいけば3D作品もできる」とした。
企画提案の仕方
そこで富山氏が「今日の2つのシュミレーションに実現の可能性が見出せたと思うが、皆さんに聞きたいのは、日本で企画提案は文書にした企画書で行うが、皆さんの国はどうい方法で企画提案をしているのか」との質問に、
TANG氏は「ケースバイケース。メジャースタジオがアプローチした時、ジャッキー・チェンが出演するような大きなプロジェクトでは、開発基金のようなものがいると思う。まず開発費を出し合い、意思一致ができれば次に進める」
KIM氏は「ペーパーワークについて言うと、アメリカで作業した時、韓国よりもずっと沢山の書面が必要だった、これはアメリカには組合があるから。すべて記録しなければいけない。韓国はそんなにペーパーワークがない。アメリカの組合は大変」
CHIEN氏は「チェックし、クリエイティブな話をし、書類はそんなに沢山あるわけではない。それよりも脚本にお金を使った方がいい」
片原氏は「日本では開発費について、出してくれるところはほとんどない。企画書がしっかりできていないと駄目。海外からの企画書が、日本語になっていないがために、日本では弾かれてしまうことがある。日本語に直してくれと言われることもあり、翻訳の問題がある。プレゼンになるような日本語で作って欲しい」
富山氏も「映画界にとっての翻訳家を育てなければいけない。開発費は脚本にお金をかけるべき」とした。
シンガポールの魅力
アジアの国で他にどの国に関心を持っているかとの質問には、
TANG氏は「シンガポール政府は資金を提供してくれる。オーストラリア政府もいい。いろんな施策をもっている」
KIM氏は「共同製作では為替レートが非常に重要になってくる。損失の場合は、一緒に穴埋めするやり方でないと、為替の問題で2倍返金しなければならなかったことがあった」
TANG氏は「契約書にサインした時の為替レートでロックインすべき」
CHIEN氏は「シンガポール」
片原氏は「世界でだと、中国、香港とやりたいが、ヨーロッパともやってみたいと思っている」とした。
中国マーケットの可能性
そして、「例えば素晴らしい脚本があったとして、契約に入る前に、開発資金のためには何が必要なのか。合弁会社か、どんな合意が必要か」との富山氏の質問には、
TANG氏は「お互いに信頼があればいい」とし、「中国市場が大きくなってくる。香港では90年代、どんな映画でも売れていたが、みんな北京に拠点を移してしまっている。中国は今後かなり可能性が望めるところではないか。非常に望みがあると思う。将来的にどういったやり方がいいか、それぞれのやり方を見ていって、中国ではアジア映画の将来を見ていく上でもっと視野を広げていくべきだ」
SHAN氏は「それぞれのテリトリーで成功できる作品を作ることが必要。将来的には可能性があるかもしれない。10年後、20年後はどうか」
KIM氏は「共同製作は、自分たちの本当にやりたいものが作れないが、アジアを一つの市場としてみていくことが大事。これからは私たちがもっと盛り上げていくべき。いつまでも大国の文化に染まっていては駄目だ」
CHIEN氏は「なんで共同製作が必要なのか。いろんな文化を学ぶことによって、私たちにも利益があると思う」
片原氏は「日本にはまだ国内で完結できるマーケットがあると思うが、もっと海外に出ていきたいという声が聞こえるようになった。これまで地方自治体ではあったが、これからは日本でも政府の補助が出るようになるので、どんどん海外からも来て欲しい」と、それぞれの考えを述べた。
資金調達、言語や法律、契約書作成、製作・仕上げ、問題が起きた時の裁判、さらに開発費や為替レートにも触れ、各国の問題点が具体的に明らかにされたが、では、どう進めていくか―。各プロデューサー共通していたのは、まず互いの「信頼」が一番重要で、各国の製作手法の違いに対応するための「柔軟性」もキーワードの一つだと、
富山氏が締め括った。
中国市場は拡大しており、投資家も興味を示している。香港の映画人も続々と北京へ拠点を移しているというが、各国のテリトリーで成功できる作品を製作することは容易ではない。改めて、アジアを一つのマーケットと捉え、「信頼」と「柔軟性」をもった具体的な国際共同製作の実現が求められる。
さらにその先には、世界のマーケットをも見据えており、アジア各国が力を入れている国際共同製作で後れを取っている日本の体制作りも急がねばならない。参加したアジア各国のプロデューサーの意見、要望には、現場を見据えた説得力があり、このような場から具体的な作品に発展していくことが期待される。(了)