※本記事は、2018年4月末発売「文化通信ジャーナル」18年5月号に掲載された特集の一部を抜粋したものです
東京・日比谷に広がる街の風景が、3月末から様変わりしている。その中心的役割を果たしている企業が2社ある。三井不動産、そして東宝である。
旧日比谷三井ビル、三信ビル跡に三井不動産が建設した高層ビル、東京ミッドタウン日比谷が3月29日に開業。三井不動産の大型宣伝もあって、オープン初日は話題の施設を一目見ようという人たちが殺到。終日、ビルの内外に幾重にも連なる大行列ができた。その後も客足は途切れず、日比谷一帯はいま、大変な賑わいをみせている。以前とは比べものにならない人の流れがあり、新しい街が生まれたといっても過言ではない様相を呈している。
東宝は三井不動産との共同歩調で、この活気ある日比谷を牽引する一翼を担う。一つは、ミッドタウン内に新規シネコン「TOHOシネマズ日比谷」を出店したこと。もう一つは、ミッドタウン開業と時期を合わせ、自社物件の商業施設「日比谷シャンテ」を別館や広場も含め大幅にリニューアルしたこと。こうして東宝は、日比谷の賑わい創出に大きく貢献しているのだ。
東宝にとって日比谷は創業の地。いま日比谷の新たな街づくりに、並々ならぬ精力を注ぎこんでいる。その土台にあるのは「日比谷ブロードウェイ」という大きな物語。映画ならばTOHOシネマズ日比谷・シャンテ、演劇ならば東京宝塚劇場、シアタークリエ、帝国劇場、日生劇場など、映画・演劇の劇場が集積する街という日比谷らしい特色を改めて前面に押し出していく。
一方で、三井不動産がミッドタウンの宣伝で掲げたメインコピーは「映画みたいな街が生まれる。」。東宝と三井不動産の足並みは、ピタリと揃っているようだ。
TOHOシネマズ日比谷のオープン、日比谷シャンテの大規模リニューアルは、86年を数える東宝の歴史においても、重要な出来事として記録されることになるだろう。文化通信ジャーナル2018年5月号では、変貌する日比谷と、その「主役」である東宝にスポットを当てる。
東宝 創業の地「日比谷ブロードウェイ」誕生
まず、東宝と日比谷の歴史を少し振り返ってみる。
「日比谷の大家」とも言われる東宝は1932年、ここ日比谷で創業。小林一三翁による「有楽町アミューズメント・センター」構想のもと、東京宝塚劇場、日比谷映画劇場、有楽座などを次々とオープン。日比谷の地に映画や演劇といったエンターテインメントを根づかせた。
それから半世紀が過ぎた80年代。有楽町マリオン開業に合わせ、巨艦劇場の日比谷映画と有楽座は84年閉館。跡地を再開発し、87年10月に東宝日比谷ビルが竣工。その商業部分が日比谷シャンテとしてオープンした。
日比谷シャンテは2017年10月で開業から30周年。隣地にミッドタウンの建設を見ながら、開業以来最大規模のリニューアルに着手。昨年10月、12月、今年3月の全3期、半年間にわたる改装工事を経て、3月23日にリニューアルオープンを迎えた。
広場にはチケットセンターが新設。その横で新しいゴジラ像が睨みをきかせ、多くの来訪者が写真撮影に興じる。1階メインエントランスに目を向けると京都発、東京・新宿でも人気だったパン屋「ル・プチメック」に列ができている。別館に開業した香港の天津専門店にも長い列。刷新した地下2階の飲食フロアも賑わいが増している。これは4月某日、いまや見慣れた、日比谷シャンテを取り巻く日常の風景だ。このようにミッドタウン開業の大きな話題性とリニューアル効果が相まって、新スタートをきった日比谷シャンテは順調に滑り出した。
一方のTOHOシネマズ日比谷。ミッドタウンの4階に11スクリーン、2231席を新設。改装した既存のスカラ座とみゆき座を組み入れて、全13スクリーン、2830席の大型シネコンとして3月29日に営業を開始した。
本誌文化通信ジャーナルは2カ月前の3月号で「激動 東京都内 映画興行 2018」と銘打った特集を組んだ。都内の興行動向を網羅しようとする中で、そのトップバッターとして取り上げたのが、TOHOシネマズ日比谷であり、有楽町・日比谷エリアだった。
有楽町・日比谷エリアは、紛れもなく国内映画興行の中心地であり、有楽町マリオンにあったTOHOシネマズ日劇が2月に閉館した後にあって、TOHOシネマズ日比谷は生まれながらにして旗艦劇場になる宿命を背負っている。こうした大きな注目の中で開業し、期待に違わぬ上々の出足をみせた。今後どのように推移し、日本の映画興行を引っ張っていくのか。ますます関心を高めた格好だ。
シャンテ別館に新しいロゴ
この3月、日比谷シャンテ別館の広場側の壁面上部に新しいロゴデザインが施された。夜はライトアップもされる。そこに刻まれた文字は「TOHO SCREEN&STAGE SINCE1932 HIBIYA」。
日比谷シャンテ別館
また東宝は、シャンテのリニューアルオープン当日の3月23日、朝日新聞朝刊に広告を出稿。前日行った新ゴジラ像の除幕式の様子を伝える記事とともに、「日比谷ブロードウェイ誕生」という見出しが強烈なインパクトを放った。ほかにもリニューアルの告知、日比谷の変遷を著名人のコメントとともに振り返る企画などを15段×4ページにわたって展開した。
こうしたアピールは、東宝の原点である日比谷にかける思いの強さや、日比谷の一連のプロジェクトに対する本気度の表出と言えるだろう。
続きの山下誠東宝取締役不動産担当、瀬田一彦TOHOシネマズ社長インタビューは、文化通信ジャーナル2018年5月に掲載。