「キネマ旬報」新編集長に青木眞弥氏 100周年に向けデジタル対応&紙面刷新
2016年05月16日
キネマ旬報社が発行する映画雑誌「キネマ旬報」の新編集長に青木眞弥氏が就任する。それに合わせて紙面を大幅刷新する運びだ。3年後の2019年に100周年を迎える同誌の次なる動向は――。清水勝之社長と青木新編集長に聞いた。
清水社長(右)と青木新編集長(左)
キネ旬のデジタル対応――青木さんはいつから「キネマ旬報」の編集長に就任されるのですか。清水 3月の人事で編集長になったのですが、実際に青木の体制で発行するのは7月発売の「7月下旬号」からの予定です。青木は編集長に返り咲きです。
――前回はいつ編集長をされていましたか。青木 私は1987年にキネマ旬報社に入社して、1995~1999年に編集長をやっていました。就任当初は29歳だったんですよ。「史上最年少編集長じゃないか?」と言われましたが、もともとキネ旬は学生が立ち上げた雑誌なので(笑)。ただ、戦後では最年少だったかもしれません。
――青木さんを編集長に再度抜擢した理由は何でしょう。清水 ひとつは定期的なローテーションです。前任の明智(惠子)は9年くらい務めましたから。あと、新しいことをやる時は過去の知見が必要なので、編集部で最も古参の青木にお願いしました。
――新しいこととは何ですか。清水 キネ旬は今年7月で創刊97年になります。3年後の100周年に向けて、社内では100周年プロジェクトを立ち上げていこうという方針になり、プロジェクトのひとつとしてキネ旬のリニューアルを考えています。これが青木体制になる7月下旬号の予定です。
――リニューアルとはどういうことですか。清水 デジタル化への対応です。仮称ですが「キネ旬オンライン」のベータ版をこの夏に立ち上げる予定です。もうひとつは、過去のキネ旬記事をデジタルで読める「キネマ旬報アーカイブス」を、今期中、少なくとも来期にはスタートさせます。この2つを立ち上げるにあたり、雑誌のキネ旬の在り方も再定義することがリニューアルの目的です。
マーケット志向の紙面に――それぞれ細かく伺いたいのですが、まず雑誌のキネ旬はどうするのですか。清水 キネ旬の雑誌事業は、単独として長らく実質的な赤字なのですが、以前は(ビデオソフト業界誌の)ビデオインサイダーの業績が良く、キネ旬の赤字をカバーしてきました。ところが、昨今ビデオグラムのマーケットが大幅に縮小し、ビデオインサイダーも収益を落としています。そこで、キネ旬の雑誌事業も単行本事業やデジタル事業と連携することで、事業としてしっかりと成立させることを考えています。最近は経費削減や、単行本の管理会計の強化によって、だいぶ収益が改善してきています。また、キネ旬もこの2年間は部数が微増しており、根強いニーズを感じています。ようやく単独で何とかやれるようになってきたかなという状況になったので、100周年に向けて、投資を拡大しようという考えです。
――具体的には。清水 ひとつは、これまでキネ旬は批評誌として、作品志向だったわけです。その要素は残しながら、よりマーケット志向の意識を持っていきたいなと。編集部が作品をチョイスする時に、自分たちが良いと思う作品を選んできたわけですが、その作品が鑑賞される環境にあるかどうかはあまり考えてこなかったのです。例えば、東京都内1館でしか公開しない作品で大きな特集を組んでも、九州や東北の読者はタイムリーに作品を観られません。「この作品が面白いですよ」と提案しているのに、観る環境にないのはよろしくない。少なくとも、遅れながらも全国を回っていく作品を、大きく扱った方がいいのではないかと思っています。
キュレーターとしての役割――マーケット志向のほかには、何かありますか。清水 今は皆さんネットで色々な情報を集められるので、より深い企画・特集・コンテンツを提供していきたいと思っています。
あともうひとつ、キュレーターとしての役割です。これだけ映画がデジタル化されると、昔の作品も含めて、観られる作品が増えてきます。劇場公開だけでも年間1000本以上あって、10年遡れば1万本です。今後動画配信がもっと普及していくと、お客さんは映画を観られる環境がさらに広がるわけです。その時に、映画知識のあるキネ旬が、キュレーション力、リコメンド色を高めていく。
これまでは、Aという作品に対して、「こういう批評もある」「ああいう批評もある」と、多様な声を紹介してきました。これはこれで批評誌としての側面は残しますが、より編集部がオススメするものを増やしていこうと思います。新作映画に限らず、過去の作品を新作に絡めて紹介していくことはどんどんやっていきたいです。これに先立って、キネ旬の読者にアンケートを取ってみると、「過去の良作も紹介してほしい」という声は多かったのですよ。(
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