夏興行たけなわである。前回報じたような厳しさは、「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」と「カーズ2」が登場したこともあって、この土日(7月30、31日)にはある程度払拭されたものの、依然として劇場側の満足度はそれほど高くはない。
7月31日現在では、「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」が興収50億円を超えて53億円、次いで「劇場版 ポケットモンスター ベストウイッシュ~」が2本で20億4千万円、「コクリコ坂から」が17億4千万円を記録している。「ハリポタ」の夏興行トップはほぼ間違いないが、100億円に到達するかどうかは、今後の展開次第である。
宮崎吾朗監督が「ゲド戦記」以来の演出をつとめたスタジオジブリ「コクリコ坂から」は、2000年以降の同社製作作品では、一番低い最終興収になる可能性が高い。ファンタジーものやキャラクターものではない作品としては、1990年代の「おもひでぽろぽろ」(配収18億7千万円)や「耳をすませば」(配収18億5千万円)があるが、やはり観客にファミリー層が少ないと、これまでのジブリ作品が築いてきた成績とは違ってくる。
ただ私としては、これはいたしかたないと考える。昭和38年を舞台にした若い男女の物語を核に、家族や学校生活の日常を織り込んでいく中身では、当然子どもたちの集客は難しいからだ。だから、より注視しなければならないのは、毎回言うようだが、今後の興行の推移ということになる。
実は私は「コクリコ坂から」を見て、かなり驚いたことがある。これまでのジブリ作品に対して、宮崎吾朗監督がアンチテーゼの意思を明確にしたのではないかと思ったくらい、従来のジブリ作品と様相が違っていたからである。画質が違う、音楽が違う、物語の展開が違うといった以上に、これまでのジブリ作品を貫いていた抒情性の要素が希薄になった気がした。
抒情性。抽象的な言い回しではあるが、ジブリ作品をジブリ作品らしくしていた描写における一つの芯のようなものと考えてもらいたい。これが今回、見えなくなったと私は感じたのである。
この企みが、意図的なものかどうかはさておき、私の関心事はその反=ジブリ的な試みをもったように見えた「コクリコ坂から」が、今後どういった人々の関心、口コミを経ていくのかということだ。さてさて、どうなることか。
(大高宏雄)