【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.37】
上半期洋画、3D映画が及ぼし始めた大いなる矛盾点
2011年07月12日
今年上半期の洋画作品別興行収入が、固まった(数字は一部推定)。2010年11月公開作品から、2011年6月中旬公開作品までが対象。以下の数字を見ていただこう。
(1)ディズニー「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」90億円前後
(2)WB「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1」69億円
(3)FOX「ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島」26億8千万円
(4)ディズニー「塔の上のラプンツェル」25億5千万円
(5)FOX「ブラック・スワン」25億円
(6)ディズニー「トロン:レガシー」21億円
(7)ギャガ「英国王のスピーチ」19億円
(8)SPE「ツーリスト」18億6千万円
(9)FOX「ガリバー旅行記」15億7千万円
(10)SPE「ソーシャル・ネットワーク」14億2千万円
何とも、厳しい成績に終始したと言わざるをえない。この間、東日本大震災を挟み、東北、関東圏でのシネコンの休館、及び計画停電による限定上映などがあり、興行面で少なからぬ影響を受けたのは間違いないが、厳しさはむろんそれのみではない。その大きな原因が、3D映画の低迷である。
周知のように、昨年の上半期は「アバター」をはじめとする3D映画が、圧倒的な興行を展開した。しかし、今年上半期はその優位性が大きく揺らいだ。くどくなるほど言っているが、3D映画は中身が重要な意味をもつ。何の映画にしてもそうだが、入場料金が高い3D映画は、とくに中身が3Dにふさわしいものでないと、観客は遠ざかる。その傾向が上半期、いよいよ強まったのである。
こうした事態に対して、日本の配給会社はどうしようもない。すべて、米国の映画会社が製作する3D映画を配給しているに過ぎないからだ。日本支社は、その中身に文句はつけられない。しかし、工夫はできる。3D映画に観客が遠ざかる傾向が出てきたなら、2D版を多くして、少しでも映画を見安い環境を作るのである。これも当たり前のことだが、これが果たしてできているか。
当の米国で、3D版のシェアが落ちており、作品によっては50%の興収を割り込む場合も出てきたようだ。米国の観客のほうが、シビアではないか。しかし、米映画界が3D映画に軸足を定めていることに変わりはない。米映画界のこの大いなる矛盾点。これを、日本の映画界ももろに受けざるをえないのだ。実に情けないことである。
(大高宏雄)