インタビュー:崔洋一監督「カムイ外伝」
2009年09月14日
――宮藤官九郎さんが脚本を書いています。一見、「カムイ~」と宮藤さんは合わないような感じがしますが、この起用の狙いはなんですか。崔 反対した人もいました。「お前、クドカンはないだろう!」っという。宮藤は非常にトレンドの先陣を切って来ました。時代、時代に必ず現れ、スター性を持つ男です。でも、どこか異端であり、フリークスなんです。彼の作品を見て、彼は流行るけれども、流行ることからも平気でふわっとどこかに飛んじゃうような、そういう好奇心を持っている男だと踏んだんです。わりとシンプルなストレート派の僕と、化学反応がどうでるかという。異化作用――それが今回の「カムイ~」でどうしても必要でした。クドカンの持つ好奇心と、僕の持つ探求心がどうコラボレーションするのかなと思ったんです。
最初から松山ケンイチ――例えば、佐藤浩市さん演じる小審の審主・軍兵衛とか、その妻(土屋アンナ)のキャラクターは、クドカン・ワールドということですか。崔 あの2人の造形に関してはそうですね。人殺しであり、悪であり、権力者であるけれども、同時に華があり美しくありたいという、妖怪ですね。しかし、妖怪という意識を持たないまま、自分の欲望に忠実で、そのことを実現してしまう。だから、悪は美しくなければならないという、その造形はクドカン・ワールドです。
――主人公・カムイ役は最初から松山ケンイチさんで決まっていたのですか。
「カムイ外伝」1シーン |
崔 もう企画段階で、脚本にクドカンが決まった時に、もう松山でいこうというのがありました。クドカンも大賛成で、松山を(カムイ役に)想定して、本作りを進めていったのが事実です。同時に、「ケンイチがNOと言ったら、ないね」と言いながら本を作っていくわけですから、かなり乱暴と言えば乱暴なやり方でした。完成してみて、結果論から導かれたと言われればそうかもしれないが、客観的にみて正しかったんです。
世代や性差を超えて――この映画の観客層は、白土さんでは団塊の世代、松山ケンイチでは当然若者ということですが、監督としてはどの辺に一番来てほしいですか。崔 シビアなことを言えば、シニアのつまりリアルタイムで「カムイ外伝」を知っているお客さまをメインに考えるかといったら、それは決してそうではないだろうと思います。もちろん“国民映画”でもないですし、ある意味での世代を超えた、“自分の存在は単純ではない”と思う人たちに見てほしいです。自分の人間像は、自己検証すると単純ではないということはみんな分かっていることだから、そういう意識と向き合うことがワクワクするという、そういう客観性を持った人たちに見ていただきたいです。それは世代や性差を超えていくことだと思うんです。今回の「カムイ~」のいわゆる専門家たちの試写会での評判は、これは意外だったんですが、若い女性たちの食いつきがすごくいいんです。松山がセクシーだということだったり、小林薫の身体からほのかな香りが漂うような気がするとか、はたまた小雪に共感できるとか、わりと女性たちの支持が強かったんです。本当に性差を超えて、世代を超えて受け入れられる映画になったと思いますね。
「カムイ外伝」 作品概要
●タイトル:「カムイ外伝」
●原 作:白土三平著 劇画「カムイ外伝」(小学館刊)
●監 督:崔洋一
●脚 本:宮藤官九郎、崔洋一
●キャスト:松山ケンイチ(カムイ)、小雪(スガル、お鹿)、伊藤英明(不動)、佐藤浩市(水谷軍兵衛)、小林薫(半兵衛)、大後寿々花(サヤカ)、イーキン・チェン(大頭)、金井勇太(吉人)、芦名星(ミクモ)、土屋アンナ(アエ)
●内 容:江戸初期が舞台。強靱な意志を持ち、剣の達人である忍者、カムイ(松山ケンイチ)は、理不尽な殺戮もいとわない掟に縛られた世界に嫌気がさし、真の自由を求め忍者の組織を抜け出す。しかしそれは裏切り者として、追っ手と戦う運命を背負うことでもあった。かつての仲間、大頭(イーキン・チェン)やミクモ(芦名星)らに執拗に追われながらも、生きるための逃亡の旅は続く……。
●公 開:9月19日丸の内ピカデリー系
●配 給:松竹
崔 洋一(さい よういち)1949年生まれ。大島渚監督や村川透監督などの助監督を経て、83年「十階のモスキート」で劇場映画デビュー。同作は毎日映画コンクール新人賞、ヨコハマ映画祭にも出品され話題となった。その後、93年「月はどっちに出ている」で報知映画賞や日刊スポーツ映画大賞など53にわたる映画賞を独占したことで一躍脚光を浴びる。近年でも「刑務所の中」(02年)でブルーリボン賞などを受賞他、「血と骨」(04年)では日本アカデミー賞最優秀監督ほか多数の賞を受賞。2007年には韓国映画「壽」を監督。その他の主な監督作は「マークスの山」(95年)、「犬、走るDOG RACE」(98年)、「豚の報い」(99年)、「クイール」(03年)など。