映画館で上映されるCM「シネアド」の効果性・優位性・独自性などのメディア価値を、リサーチをもとに研究する日本初の非営利団体「一般社団法人デジタルシネアド・コンソーシアム」(DCAC)がこのほど設立された。海外ではシネアドの売上が年々上昇している一方で、日本ではその効果の高さに反し、企業からの認知度はまだ低い。DCACでは、シネアドに関する調査を行い、効果を数値で具体的に表すことにより、日本でのさらなるシネアド利用の普及を目指す考えだ。DCACの役員陣が本紙のインタビューに応じた。
左より、加茂理事長、田中会長、立花理事
会長を務める
田中洋氏(中央大学ビジネススクール 大学院戦略経営研究科 教授)は、シネアドの特長を表すキーワードとして「キャプティブ・オーディエンス」を挙げる。「“聴衆を囲う”という意味だが、映画館で、映画が始まるのを待っている時にスクリーンに映し出され、オーディエンスも期待感をもって見ている。これは他にはあまりなく、貴重なメディアだ」という。また、広告には大きく2つの効果があるとし、「1つは、通販のように直接の購買につながる“販売促進”効果。もう1つは、ブランドの価値や知名度を高める“ブランディング”効果。TVは、どちらかと言えばブランディング効果の媒体として長い間使われ、インターネット広告は販売促進型だった。ただ、TVは昔ほど若い人にリーチしにくくなってきた。ネット広告もアドフラウド(表示回数の不正等)などの問題があり、広告主の人は(その他)色々なメディアを探している。我々が調査したところ、シネアドはかなりブランディング効果があることがわかってきた」と、企業が今後出稿するべき有力なメディアの1つであることを示唆した。
理事を務める
立花徹也氏(シネブリッジ常務取締役)は、団体設立を立ち上げた経緯について「世界的に、シネアドはデジタルメディアと同等か、それに次ぐほど(売上が)伸びている。それは、シネアドの効果をリサーチし、検証して結果を公表していることが大きい。しかし日本ではまだまだそれができておらず、日本でもシネアドというメディアの価値を数値化して、広告主や広告代理店にもご理解頂き、価値を上げていきたいと考えた」と説明する。
団体が予定している活動として、立花理事は、「シネアドの効果の研究。シネアドの役割や効率性の調査。あとは、シネコンから、シネコンが入居する商業施設への導線作りの研究。すぐの購買に結び付けるためのプロモーションの研究などを行っていく」と語った。
TVと同等のコストパフォーマンスの期待も
4月24日には、公益財団法人日本マーケティング協会主催による「デジタル・メディア・イノベーション 最新事例 ~メディアの変化をどうつかむか?~」と題したセミナーが都内で行われ、DCAC役員を含む有識者が出席、DCACの
加茂純理事長司会のもと、様々な角度から最新の宣伝事情が語られた。
左より小出、江端、田中、加茂の各氏
その中で、日本最大の広告主の1社である資生堂ジャパンの
小出誠メディア統括部長は、シネアドについて「能動的な視聴であるという意味でいうと、シネアドは非常に可能性がある。1千人あたりの到達コストを比べると、CM費用の高い人気番組でのF1層やM1層へのリーチコストと、『スター・ウォーズ』のようなすごく当たる映画に出稿した時のリーチコストは近いのではないか。シネアドに合わせたコンテンツを放映できれば、より良いと思う」と、場合によってはTVと同等のコストパフォーマンスがあることを述べた。
デジタルメディアに精通する事業構想大学院大学の
江端浩人教授は「注目度の傾向として、一緒に見ている人が多いほど高まる。1人で見る番組よりも家族で見る番組。そして、シネアドのようにみんなで見るコンテンツは、その場に自分も一体化しようとする思いが強くなるからこそ効果があるのではないかと思う」と話し、DCACの田中会長もその意見にうなずきながら「おっしゃる通りで、今はライブの価値が見直されている。コンサートやリアルなショップで、誰かと一緒に経験することでさらに価値が出てくる。誰かと一緒に視聴する経験はコミュニケーションに非常に有効。スポーツもそう。ライブで見るのと録画で見るのでは全然価値が違う。これは“経験価値”と言われ、メディアの効果を考える上で重要」と指摘した。
田中氏はさらに、「商品ごとに適したメディアがある。例えば、精神を安定させる薬は、電車のドアに貼るステッカー広告が効果的と言われていた。それはメンタルが参っている人はドアにもたれかかっているから」と興味深いエピソードを交えながらメディアの特性を説明。小出氏も「メディアの接触は千差万別になっている。20世紀は、極端な話、クリエイティブを頑張って、あとはTVCMの量で勝負だった。しかし、今は一般の方にフェイスブックであげてもらうように工夫するとか、メディアの部門の領域が広がってしまい、仕事の範囲が広がって大変」と話した。江端氏は「(メディアを)どう組み合わせるかが重要」と述べ、田中氏も「流通(企業)さんのことを意識すれば、TVにはある程度従来と同様に投下しないといけないが、それだけでなくメディアミックスが改めて重要になっている。その時に、流通さんに対して(TV以外のメディアも)新しい指標作りを行うことも課題としてある」と語った。
視聴者が行動に移す“態度変容”で大きな効果 その後、DCACの立花理事が、ボルボ(商品:ボルボXC90)、花王(ビオレu)、資生堂(マキアージュ)、大塚製薬(ファイブミニ)の4社が出稿したシネアドに関する調査結果を発表した。
4社は、シネアド上映と同時期にTVCMも放映していた。調査データの集計後、(1)TVCMと、映画館でシネアドを観たグループ (2)映画館でシネアドのみ観たグループ (3)TVCMのみ観たグループの3つに分けて比較分析を行った。
立花理事
比較は、(1)と(3)のグループを中心に行った。まず、「外国メーカーの乗用車」で思い出す(第一再生)ブランド名を5つ記入してもらったところ、1番目に「ボルボ」と書いた人は、(3)は3.4%だったのに対し、(1)は7.2%で、3.8㌽増。同様に「ビオレu」の①は37.5%で0.4㌽増、「マキアージュ」は17.4%で3.5㌽増、大塚製薬は14.9%で7.2㌽増だった。4商品の平均は(人数比)125%のリフトアップにつながった。
次に、商品の特性の理解度を示す“属性理解”で比較すると、こちらも各商品で(1)が大きく上昇。例えば、ボルボが「安心・安全性が高い」と認識した人の割合は(3)に比べ(1)が10.6㌽増の61.8%、ビオレuが「健康肌を考えて作られたこと」を理解した人は、(1)が13.9㌽増の65.4%、マキアージュが「自然な素肌感になれそう」と思った人は、(1)が13.7㌽増の62.1%、ファイブミニが「お腹の中を綺麗にしてくれる」と感じた人は、(1)が10.2㌽増の62.9%だった。各商品、4項目ずつ調べており、平均123%のリフトアップとなった。
視聴した人が実際に行動に移すかどうかの“態度変容”調査では特に大きな増加が見られた。ボルボの場合、「来店意向」は(1)が11.2㌽増の22.5%、ビオレuの「購入検討意向」は(1)が14.0㌽増の65.2%、マキアージュの「利用意向」は29.0㌽増の66.5%、ファイブミニの「飲用意向」は21.3㌽増の66.9%だった。立花氏は「行動系の指標は大きく差が出る」とTVCMなどとシネアドを組み合わせて宣伝することの効果を語り、その特質を「想起率を高め、ブランドへの態度変容を促すような高い質をもった広告活動」と説明した。
なお立花氏は海外のシネアドの出稿費の上昇率の例として、米国では2016年に前年比5.8%増の約800億円、英国では8.0%増の約383億円だったというSAWA(スクリーン・アドバタイジング・ワールド・アソシエーション)の調査結果も報告した。
10~20代への到達効率で存在感増すシネアド セミナーの前には、資生堂ジャパンの小出氏が本紙のインタビューに対し、「今10~20代は映画との接触が増えていると思う。一方で、色々なメディアを使ってこの世代に届けようとしても、なかなか到達しない。特に、TVのF1層、M1層への到達効率が悪くなっており、雑誌もF1、M1層には以前のようには届かない状況になっている。逆に、その世代に届けるためのシネアドは存在感が増していると思う。視聴の質も高い」とコメント。利用方法としては、「明るい映画をうまく選んで、それに合わせたコンテンツをしっかり作って到達させると、コストパフォーマンスも悪くないと考えている」とし、「まだシネアドに対して大きなアクションをとっているわけではないが、個人的にはすごく関心がある。今後は、利用する選択肢として十分に入ってくると思う」と活用に前向きな姿勢を見せた。 了
取材・文・構成 平池 由典