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『リトル京太の冒険』大川五月監督 “人と人のつながりが互いを成長させる”

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『リトル京太の冒険』大川五月監督 “人と人のつながりが互いを成長させる”

2017年04月03日

『リトル京太』.jpg
(C)2016 Little Neon Films


 震災を題材にしながら、優しさに溢れた目線で少年の成長をコミカルに描く映画『リトル京太の冒険』(配給:日本出版販売)が、4月1日(土)からシアター・イメージフォーラムで公開される。

 メガホンをとったのは、短編映画『京太の放課後』(12年)がゆうばり国際ファンタスティック映画祭の短編部門グランプリを受賞して注目を集めた大川五月。大川監督は翌年に続編の短編『京太のおつかい』(13年)を発表。そしてこのほど、最終章にして初の長編映画となる『リトル京太の冒険』(17年)を作り上げた。

 今作は、過去の短編2作品の映像も組み込んで構成されており、主人公・京太の成長と、演じた土屋楓の実際の成長がリンクした、リチャード・リンクレイター監督『6才のボクが、大人になるまで。』を彷彿させる物語であることも注目ポイントの1つだ。京太シリーズが米ワインスタイン・カンパニーの役員の目に留まり、レクサスの短編映画に抜擢されるなど注目の新鋭・大川監督に、今作の制作経緯について聞いた――。


深刻な話でも、微笑ましく笑える作品に

大川監督

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 第1弾の『京太の放課後』は、群馬県の桐生青年会議所が開催している短編映画祭「きりゅう映画祭」の映画制作支援募集企画から誕生した。「企画を応募しましたが、採用枠は2つで、実は『京太』は補欠の3番手。でも、熱心に推してくださる方がいて、青年会議所のメンバーのカンパで製作することができました」と監督。物語は、震災以降、防災頭巾を手放せなくなってしまった10歳の少年が、スコットランド出身の外国人英語教師・ティム(アンドリュー・ドゥ)と触れあい、胸に内にしまっていた不安な気持ちを口にし、成長していくストーリー。「どちらかと言えば、町を出たいと思っている少年の話ですが、青年会議所の方は快く制作を支援してくれました」という。

 震災後の少年の心境を繊細に描いた短編だが、監督は3・11当時ニューヨークに在住しており、直接震災を体験していない。「あの時、米国でも日本の震災のニュースばかりでした。でも、しばらくすると別のニュースに切り替わってしまった。やはり、伝えられるのは(日本人の)自分たちしかいないと思い、いつか震災を題材にした映画を撮りたいと思いました。その年の夏には日本に一時帰国し、友人や知り合いに色々な話を聞き、震災を体験した人の心情を想像していきました」と、京太を描写する下地を積み上げていった背景を語る。

 『京太の放課後』を製作する上で監督が特に意識した点がひとつ。「深刻な話ですが、コメディにしたい。微笑ましい、笑える感じにしたいと思っていました」という。作品はその意図の通り、京太の妄想が楽しく、ティムと話す際の片言の英語が微笑ましい内容に仕上がっている。同作はゆうばりで受賞したほか、国内外の映画祭で数々の賞を獲得した。監督は、各地の映画祭で得た観客の反応の特徴として、「『言いたかったことを言ってくれた』という感想をおっしゃる方が多かったんです」と振り返る。原発事故が怖く、逃げたいと思っていても、それを口に出せなかった人が作品に共感。しかも、震災から1年経たない時期にコメディで描く作品は珍しく、人々の目に斬新に映ったようだ。この点については「海外にいたからこそ作れた作品かもしれません」と分析している。


防災頭巾脱げない京太の話を完結させたい

 各方面で高い評価を得た第1弾に続き、翌年にはゆうばり映画祭から支援を受け、第2弾『京太のおつかい』を製作。京太と、もう一人の少女を通して、バックにいる大人の心境を描いた。こちらも各地で好意的に受け止められ、シリーズは知る人ぞ知る存在に成長していく。

 京太の世界観が広がっていくなかで、監督は「京太の長編を作りたい」という気持ちが生まれたという。前2作では、京太は防災頭巾を脱げないままでいる。また母親(清水美沙)の京太への想いも報われないままでいた。この2つを完結させるべく、長編の製作にとりかかった。製作費は、前2作品のプロデューサーと今作のプロデューサーが協力し、桐生市の有志の出資も得て捻出した。また、クラウドファンディングでも宣伝費などを募り、80万円以上の支援が集まった。

 最終章では、京太の心の支えだった外国人教師のティムがスコットランドの独立住民投票に参加するため、母国に帰ることが決まり、京太が引き留めようとする。監督は「私は夫がスコットランド人なこともあり、スコットランドの情勢はずっとニュースで追っていました。独立投票は、あそこまで自分の国に熱くなれるのかと、羨ましかったです。日本とは違うなと。ティムなら帰るだろうと思いました。(京太の成長のためには)ティムが帰国する必要もあり、たまたまですが、その理由が見つかったんです」と、ストーリーの骨格を固めた経緯を説明する。また、過去の短編2作品を組み込む上で、過去と現在の対比となる出来事を今作で発生させることも意識したという。

 最後に監督は、作品について「人と人とのつながりが、お互いを成長させるところを見てほしい。楽しい中に悲しさがあり、悲しさの先に喜びがあることを感じとってもらえれば」とアピールした。製作はリトル・ネオン・フィルムズ。制作プロダクション協力はテトラカンパニー。特別協力はわたらせフィルムコミッション、桐生市、みどり市、桐生青年会議所。特別協賛はコトプロダクション。

 なお、監督は昨年夏より活動拠点を日本に移しており、「呼ばれたらどこへでも行きます」と意気込んでいる。 了


シアター・イメージフォーラムで絶賛上映中
初夏、名古屋シネマテークにて上映決定
以降、全国順次公開予定




取材・文/構成 : 平池 由典


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