パラマウント ピクチャーズ ジャパン 星野 有香 マーケティング本部長
2014年07月29日
体感型、新次元3Dを強調
――『トランスフォーマー』といえば、やはり圧倒的な映像の力が魅力的です。
星野 コピーとして「人類史上最高の体感型アトラクション[新次元]3D」を大きく打ち出しています。過去3作や『アバター』等を超えて、まさに本作は究極の映像表現だと自負しています。最近は洋画メジャーでも3Dプリントをあまり出さない傾向がありますが、本作では3Dを明確に押し出します。前作は全興収に占める3Dの比率が86%に達していましたから、本作への3D需要は実証済みだと言えます。
6月27日から全米をはじめ、世界各国で公開がスタートし、メガヒットを記録していますが、IMAX作品としても、公開からわずか12日間で『ダークナイト ライジング』が持っていた従来の記録を塗り替えました。本作のIMAX3Dの映像は、ほぼ全編を4Kデジタルカメラで撮影しています。IMAX3Dの4K撮影は今回が世界で初めてで、10mの等身大のロボットたちが目の前に出現するわけですから、IMAXシアターの観客は圧倒されると思います。
――どんな層をターゲットに据えていますか。
星野 興収60億円を目指すには、当然オールターゲットです。昨今の洋画が取り込みに苦労しているティーンやM1層にもこのシリーズは根強い人気があります。現在の洋画を支えるM2、M3層に加えて、10代、20代、そして玩具人気もあるのでファミリー層まで掴めると思っています。男性へのアプローチが強い一方で、女性がどう反応するかも注目しています。マイケル・ベイ監督は毎回セクシーな美女を登場させてきましたが、今回のヒロインであるニコラ・ペルツは男性目線のセクシーさではなく、むしろ清純な印象なので、女性客にも抵抗感がないと思います。また、彼女とマーク・ウォールバーグの父娘の描かれ方は、『アルマゲドン』のブルース・ウィリスとリブ・タイラーのようであり、男女問わず日本人には受け入れられやすいはずです。
――映像の素晴らしさに加え、ストーリーが観客を引きつけると。
星野 そうです。今回の宣伝で強く訴えているのは「我々の物語」だということ。ケイドとテッサの父娘関係を見て、観客は自身の人生と重ね合わせることになります。また2つのキャラクター、オプティマスとバンブルビーに宣伝の核となるコピーを背負わせました。前者が「仲間のためなら人類とも戦う」、後者が「それでも人類のために」。果たしてロボットたちが人類のためにどういう決断をするのか…、観客に自らの物語として感じてもらいます。観客の生活する空間や時間に映画を近づけていく。そういった巻き込み型の宣伝を徹底しています。
全世界で興行新記録が続出
――6月27日に世界38カ国で公開され、7月9日現在、全米は1億8908万ドル、インターナショナルは4億3520万ドル、ワールドワイドは6億2428万ドル。38カ国ながら、驚異的なペースで数字を伸ばしています。
星野 わずか38カ国なのは、サッカーW杯があったからです。サッカーの特に盛んなヨーロッパ、南米の公開を遅らせ、アジア、ロシア、オーストラリアなどに限定しました。通常ですと100カ国規模で同時公開する作品です。38カ国の公開で、65カ国の『GODZILLA』の数字を大きく上回っているのですから、実に驚異的です。特に中国の勢いは凄まじく、11日間で約2億2千万ドルを上げ、『アバター』を抜いて、自国映画も含めた中国映画興行史上の新記録を樹立しました。今回は全編の4分の1くらいが中国で撮影され、決戦の地は香港。その関係もあって、香港でワールドプレミアを行いました。
――サッカーW杯関連では、面白いテレビCMを見ました。
星野 イングランド2部チームの試合にオプティマスがゴールキーパーとして現れて、ボールを潰してしまうユーモアたっぷりの60秒スポットです。フランス×ドイツ(7月5日)、オランダ×コスタリカ(6日)の準々決勝2試合で放送したところ、視聴者から大きな反響がありました。
――英語のオリジナル版に、世界的に活躍する渡辺謙が声優として出演しているのも話題の一つです。
星野 マイケル・ベイ監督が渡辺謙さんに直接電話をして、出演をオファーしたそうです。演じるのはオートボット所属の二刀流の侍、ドリフト役。ブガッティからヨロイ兜に変身する、とても魅力的なキャラクターです。録音は一日で行ったそうですが、予想以上に登場シーンが多く、全編にわたって活躍します。日本語吹替版のドリフト役は謙さんではありませんが、宣伝面でも協力してもらえるよう要請しています。
――日本語吹替版にも力を入れているようですね。
星野 最近はファミリーだけでなく、若者も吹替版を抵抗なく観ますから、本作でも吹替版を重視しています。そこで、ニコラ・ペルツの吹替に中川翔子さんを起用しました。中川さんはこれまで『ポケモン』などで声の出演を経験済みですが、洋画の実写では初めて。収録現場に立ち会いましたが、見事な演技でした。お父様(歌手・俳優・声優の故・中川勝彦さん)も声優ということで、まさに適任だったと思います。字幕との比率は半々くらい。上映素材は、3Dの字幕と吹替、2Dの字幕と吹替、IMAX3Dの字幕、全部で5バージョンを用意します。公開規模は330サイト、700プリント以上を予定しています。
興行者が評価、お盆に封切
――日本の公開は8月8日ですから、他国の6月公開から1カ月半ほど空きます。
星野 このクラスの大作の場合、全世界同時公開というのが増えていますが、同時公開はとにかく素材が間に合わず、日本用にローカライズした宣材を作れない。数字が落ち込んだ2作目は世界最速公開でした。今回は本社に交渉をして、夏休みの一番良い時期に公開することで了解を取り付けました。年間で興行が一番盛り上がるお盆の時期に封切れるのは、過去の実績に対する興行会社の評価と、最新作への期待の表れでもあります。
――インシアターでの展開は、どのようなものですか。
星野 TOHOシネマズではシネマイレージに入会すると特製グッズがもらえるキャンペーンを実施中です。またイオンシネマがU‐NEXTと共同展開する「トランスフォーマー祭り」と組んで、全スクリーンで予告編を上映するなどします。他にもIMAXシアターではIMAX限定の映像を用意するなど、興行各社各様の取り組みを行っています。
――今回も様々な企業とのタイアップが実現しました。
星野 ソフトバンク、ローソン、森永製菓のポテロング、南日本酪農協同の飲料スコールなど、身の回りの生活導線にトランスフォーマーを出現させます。最大のタイアップ展開となるのが、公開翌日の8月9日から17日までパシフィコ横浜で初開催する「トランスフォーマー博」です。日本テレビとタカラトミーが主催し、期間中に15万人の来場者を見込みます。広告換算すると、トランスフォーマー博で5億円規模、タイアップ全体で10億円規模の露出効果があります。これとは別に、宣伝費も当然2桁、前作を超える規模を投じます。
――夏休み真っ只中での公開となりますが、意識している作品はありますか。
星野 『GODZILLA』(7月25日公開)、『るろうに剣心 京都大火編』(8月1日公開)、『STAND BY ME ドラえもん』(8月8日公開)の3本です。『GODZILLA』は『トランスフォーマー』と同様で日本発の洋画作品。客層では特に年配の男性が重なり、配給の東宝さんも相当大きな宣伝費を使っています。『るろうに剣心』は25歳以下の、特に女性に人気が高い。一方の『ドラえもん』は、どんな興行になるのか予想が難しい。ニールセンとGEM Partnersの2社のトラッキング(認知度×意欲度)によると、7月中旬現在、前作よりも良い数値が出ています。前述した他社の3作に比べ認知度はやや低いですが、意欲度はずば抜けています。TVスポット投下前の数値としてはかなりの高さです。公開に向けてさらに認知度、意欲度が高まって、理想的な形で初日を迎えられると思います。もちろん、夏興行の№1を目指します。
年間興収100億円が必達
――これから公開に向けて、怒涛の露出展開になりますね。
星野 公開3週前(7月19日)からテレビスポットを始めました。7月28、29日にはマイケル・ベイ監督とキャストが来日予定で、都内でジャパンプレミアと記者会見を行います。両日とも会場に一般のファンを多数招待します。8月1日から11日までは渋谷をジャック。渋谷交差点のビル壁面にトランスフォーマーを多数出現させ、街頭ビジョンで映像を流し、コンボイをはじめ各キャラクターの車も走らせるなど、渋谷の街をトランスフォーマー一色に染め上げます。Yahoo!トップページのトップインパクト広告も、あっと驚く仕掛けがありますのでご期待ください。
――さて、今年のパラマウントは、6月末時点で興収が約30億円。昨年の年間興収は42億円でした。
星野 6月公開の『ノア 約束の舟』は宣伝の難しい作品だったのですが、スマッシュヒットとなり最終興収で15億円を目指しています。10月の『ヘラクレス』、12月の『ミュータント・タートルズ』も必ずや大きくヒットさせます。『トランスフォーマー/ロストエイジ』で興収60億円、夏興行トップの座を獲得し、今年は年間興収100億円以上を達成させます。(了)
取材・文/構成:松本貴則