クリエイターズ★インタビュー:原一男監督/new「CINEMA塾」
2014年06月27日
一生懸命な勉強の仕方が時代とマッチしないのか!?
和田 今回new「CINEMA塾」を開講するにあたって、声をかけた方々の反応はどうでしたか。
原監督 それは皆さん気持ちよく「やりましょう」と言っていただいたのですよ。ただあの頃と違うのかなと思うのは、前回の田原さんの時は140~150人ぐらいで超満員だったのです。今回第1回目は60~70人くらいでした…。
和田 何人入る会場ですか。
原監督 120~130入るのです。詰めれば150人ぐらいで。ですから空席が見えてしまって、それはちょっとショックでしたね。なぜこんなに少ないのだろうと。特に「CINEMA塾」は1回の時間が長いのですよ。中身を濃くしようと思うと、朝から晩まで時間もかけて、じっくりとと思って、いつも私が講座をやる時には時間を長く設定します。長く、必死に、一生懸命というような勉強の仕方が、時代とマッチしないのかといいますか、そういうショックを受けています。「何が変わったのだろう!?」という、その違いを見つけたいということで始めたと言っておきながら、観客の反応といいますか、数の違いにまず今直面しているのです。
和田 今回の第1回~3回までやられてみて、見えてきたものがありますか。
原監督 来た人は、それはかなり突っ込んで話をしますからね。セルフですから、まさにプライベートな部分にもかなりこちらも突っ込んでいきますし、ゲストの人もかなり覚悟して、自分の内面、弱さとか、本当はあまり言いたくないような部分も、自分の口からしゃべらざるを得ないということをしゃべったりしてくれています。聞く側も、「中身が濃いよね」という反応はわりとあるはずです。ですから、来た人はそういう風に思ってくれるのでしょうけれど、まずもって来てもらいませんと、収支が危うくなるというのが今ちょっと辛いのです(笑)。
和田 受講者の年齢層はどうですか。
原監督 もちろん数人ぐらい60代もいるのでしょうけれど、40、50代の人も結構多かったです。圧倒的に若い人というわけでもないですね。20代の若い人もいますが2割ぐらい。30代もちらほらと、年齢層はわりと広いのではないでしょうか。
和田 受講者たちは、自分でも映画を撮りたいという人たちなのですか。
原監督 業界の人も少しいるような感じです。打ち上げに行きましたら、それぞれ自分なりに表現をしているような人たちもいました。テレビ局のプロデューサーが来ていまして、若いディレクターに講座に行けと言いたいのだけれども、若いディレクターというのは大体みんな仕事を抱えていますから、なかなか時間が取れないので、そこがちょっと辛いというようなことを仰っていました。本当は現場でいろいろやっている人が、一番関心が深いはずであるという風には思ってはいるのですけれど、現実的にはそういう人は次から次へ仕事をこなさなければいけないので、時間を作るのがなかなか大変だろうなというのはあります。
和田 予想の半分ぐらいだと、回を追う毎に運営的に苦しくなっていきますよね。
原監督 そうなのです。1年間の通しの受講者が100人いるだろうと、100人受けてくれるであろうことを前提に予算を割り振っていったのです。海外からも3つやろうということで呼びましたから、これがコスト・パフォーマンス的にはやはり高いのですよ。
ですから、もし赤字になったら自分で全部背負わなければいけないので、そこがちょっと…必死に今やっています。第2回は80名ぐらいになったので少し持ち直してきたのですが、講座ごとにPRをやっていって、なんとか人を入れないことにはちょっと辛いですね。
自分のことは他人と比べてみるのが一番よくわかる
和田 今回海外の作家を呼ぼうと思われたのは、どういうことからですか。
原監督 私たちは日本人ですから、日本の状況とか日本の時代について一生懸命考えるのですが、やはり自分のことは他人と比べてみるのが一番よくわかるという経験をしています。つまり海外に行って、初めて自分たちが作っているのは日本映画であると。日本人がどういう風に見られているのかということを、初めて実感として知ったという体験があるのです。
そういう意味で、よその国のセルフ事情を聞くことで、日本の置かれている立場などがわかってくるかもしれないと思ったのです。中国などは、実は今までセルフなどなかったのですよ。私たちのセルフが、回り回って微妙に影響を与えていたりするのです。そういうものも「面白いな」と思いました。ただ相手が受け入れた時点で、やはりそれがどこかで日本と違うものになっています。文化が伝わるというのは、そういうものでしょう。ですから、中国におけるセルフというものがどんな位置を持っているのかとか、(アヴィ・)モグラビなど中東でのセルフというのはどういう感じなのだろうかとか、そういうものを比べてみることで、自分がより一層鮮明にわかってくるのではないかという感じでしょうか。
和田 今回、映画を中心としたクラウドファンディング・プラットフォーム「モーションギャラリー」で支援を募っているのは、大部分がその外国からの招聘のためにということですね。
原監督 それがほとんどですね。予算的に一番そこを補填しないと辛いです。
和田 申請されたという助成金の状況はいかがですか。
原監督 3件応募して、2件はもうNOでした。あと1件まだ答が出ていません。
和田 NOの理由は教えてくれるのですか。
原監督 ないです。「今回はお気の毒ですが」ぐらいのことで、なぜ駄目なのか本当のことはわかりませんね。一つぐらい通ってくれないと辛いのですけれど。
和田 今回、第1回~3回をやられて、逆に原監督の中でさらにわからなくなった部分というのが出て来ましたか。
原監督 はい。それぞれの作品によって、つまり作者によって、セルフというものを自分の中でどんな風に受け入れてくれるのか、作り手によって微妙に違うのですよね。その違いのようなものが、1時間、2時間話していくと少しはわかってきます。映画だけ観ていればわかるかというと、なかなかそうはいかないのですよ。作品を観て、そして作者にずっと聞き込んでいくと、微妙に「ああ、自分とは違うな」というのがわかってくるのです。とりあえずその違いというようなことを実感することが大事かなという感じがしています。
それを12回続けて、トータルで「ああ、セルフってやっぱりこういうことなんだよね」というものが掴めるかな…という、そう簡単に1回やったからぱーっと何かがわかるというものではないですよね。何か掴めそうな気がしてくる、一つ一つの積み重ねではないでしょうか。それで終わりの頃に「1年やったけど、ああ、こういうことだったんだ」という、大体そんなものですよ。
和田 今の新しい時代のクラウドファンディングというもので、なんとか支援していただいて、1年間やり切れるといいですね。
原監督 はい、赤字が出ないように(笑)。
※インタビュー前編(了)
※原監督の新作などについて聞いたインタビュー後編は9月掲載予定。
なお、映画を中心としたクラウドファンディング・プラットフォーム「MotionGallery」内の「文化通信キュレーションページ」では、本講座を支援するプロジェクトを掲載中。目標金額は80万円だが、本プロジェクトは目標到達に関わらず、8月10日0時までに集まった金額がファンディングされる。