バトンを受け継ぐ
――永富さんは今回初めて映画プリキュアのプロデューサーを担当されましたが、特に意識したことはありますか。
永富 先輩のドキドキ!プリキュアが新しいハピネスチャージプリキュア!にバトンを渡すのと同じように、これまで映画プリキュアのプロデューサーを歴任してきた鷲尾(天)や梅澤からどうバトンを受け継ぐのか、ということがテーマでした。プロデューサーに限らずスタッフ全員がそうです。10年前から一貫してプリキュアに関わっている人は多くありません。皆がバトンを受け継ぎ、プリキュアの重みを感じながら仕事をしています。声優さんもそうです。ドキドキ!のメンバーが、ハピネスチャージのメンバーに「去年は私たちがそうだったのよ」なんて話をしていましたが、来年はハピネスチャージの人たちが新しいプリキュアメンバーに同じことを言うことを想像すると、こうやってバトンが渡っていくのだろうなと感じています。
――プロデューサーに決まった経緯は。永富 詳しくはわかりません(笑)。ただ、僕は最近まで東映に出向していて、昨年の5月に東映アニメーションに戻ってきました。そしてTV企画部でプロデューサーをすることが決まり、アニメの現場に研修に行くことになりました。その時に入ったスタッフルーム(映画で言う『○○組』)が、昨年秋に公開された『映画ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!? 未来につなぐ希望のドレス』のチームだったのです。ここで1ヵ月ほど制作進行を経験して、TV企画部に戻る日に、部長から「春の映画もやってみれば」とチャンスをもらいました。ビックリでしたよ(笑)。
――当初からプリキュアに詳しかったのですか。
永富 東映アニメのスタッフは、何らかの形でプリキュアに関わることが多く、勉強する必要性が出てきます。僕自身、初めてのプリキュアのホームページ立ち上げを担当するなど、プリキュアの知識はありました。それぐらい、東映アニメの人間にとってプリキュアは大切なタイトルなのです。
――映画の脚本作りを始めたのはいつ頃ですか。永富 昨年の8月頃だったと思います。「プリキュアオールスターズ」の脚本はすごく難しいのです。登場するプリキュアが多いことに加え、翌年2月にスタートする新プリキュアのキャラクターを入れないといけないのですが、その段階で新プリキュアの設定が固まっていないと、どういう性格で、どんな動きをするのかもわかりません。そんな未知のキャラクターを主人公に据えて映画を作るのですから、なかなか大変です。ただありがたいことに、今回は「NewStage」3部作の「1」「2」を担当してくださった成田さんに引き続き脚本を手掛けてもらうことが決まり、しかもハピネスチャージのシリーズ構成も担当されることが決定していたので、擦り合わせすることが可能でした。
――では、そこからはトントン拍子だったのでしょうか。
永富 8月頃から脚本に着手しましたが、完成すればすぐに現場が動くわけではありません。まずは絵コンテの作業に入り、小川監督が完成させたのが年末でした。絵コンテも大変なのです。アニメの場合、1カット1カット、監督の絵コンテが秒数まで指定します。演出家が絵コンテを描くのは息が詰まるというか…命を削って描いていますよ。
――尺は何分ですか。
永富 70分58秒12コマです。その中で、プリキュアを全員出さねばならず、しかも「NewStage」の「1」「2」に出てきたキャラクターも登場させ、ドキドキ!からハピネスチャージへのバトンタッチも描き、本線であるユメタの葛藤を描く必要があるので、脳みそフル回転でした(苦笑)。
――それだけ盛り沢山で70分は厳しいですね。2時間40分ぐらいほしいでしょう(笑)。永富 ただ、やっぱりお子さんがは長時間イスに座っているのは難しいですからね。先ほど申し上げたほかに、ミラクルライトを振る時間も入れます。ただ、これらの条件を全てクリアした上で、よくまとまっているので、これは脚本と監督の力ですね。本当に感服しました。自分で制作しておきながら、観ていると涙が出てくるストーリーで、非常によく出来たと思います。
――尺の制限はあるのですか。
永富 70分と言われています。71分ではダメと言われています。70分58秒なので、ギリギリまで使いました。
エンディングには新技術採用――永富さんは最近まで東映に出向されていたということですが。永富 東映デジタルセンターの中にある「ツークン研究所」というところにいました。そこで「アキバレンジャー」や『バトル・ロワイアル3D』などの実写ドラマ・映画のVFXを担当したり、小規模作品をプロデュースさせてもらっていました。実は、不思議な縁で「プリキュア」とも関わることがありました。
ツークン研究所の事業の柱の1つに「モーションキャプチャー」事業があります。プリキュアは非常に早い段階からモーションキャプチャーの技術を取り入れていて、エンディング曲のダンスでそれを使用しています。この映像を僕が担当することになったのです。ツークン研究所に出向が決まった時、アニメとは関わりがなくなるのかなと思っていたのですが、ここでプリキュアと接点ができたのは面白かったですね。
――今回の映画版エンディングでも取り入れていますか。永富 はい。モーションキャプチャーだけでなく、実は新しい技術「フェイシャルキャプチャー」というものも採用しています。従来のモーションキャプチャーは、体の大きな動きを押さえてデジタルデータに移植していくものですが、フェイシャルキャプチャーは、人間の顔の動きを再現するものです。有名なものは、『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』でしょう。実はツークン研究所でもフェイシャルキャプチャーの技術を実践導入しており、僕がプロデュースさせてもらった実写映画『009ノ1』にテスト的に導入したこともあります。そこで手応えを感じたので、今回のプリキュアのエンディングシーンにも取り入れました。
――だいぶこれまでとは変わるのですか。
永富 そこのバランスは難しいところでした。プロが見れば「おお」となりますが、一般の方が見ると変化は少ないかもしれません。実はアニメのキャラの顔をあまりリアルに動かしてしまうと、気持ち悪く見えてしまうのです。『猿の惑星:創世記』は、実写から実写へ置き換えるものでしたが、プリキュアの場合は実写からアニメへの変換です。あくまでアニメらしい動きに仕上げなければいけないので、このあたりは今後の課題ですね。
ただ、この技術を応用して今回のエンディングは大きく変わった点があります。実は、これまでは踊るだけだったプリキュアたちが、本作では初めて歌声も披露しています。歴代プリキュア9組のうち、ピンクのプリキュア9人(初期はブラック)が口をしっかり動かして歌っています。ぜひこの楽曲は聴いてもらいたいです。非常に良い歌で、CGもすごく頑張っています。「パレード」をテーマに、お祭り感のある映像とダンスで、合唱の力も素晴らしいなと思います。
――今作が「NewStage」のラストステージとなりますが、来年以降はどうするのですか。
永富 どうなるのでしょうね。 僕にもわかりません。「DX」「NewStage」同様に、また3部作が始まるのか、1年こっきりの何かが始まるのか、挑戦的なタイトルになるのか…。ただ、あくまで映画ですので、本作の興行の結果次第だと思います。
――最後に、目標の興行収入と、ファンに向けて一言お願いします。
永富 目標は12億円です。監督を中心にスタッフ一同、身を削って作品を良いものに仕上げていこうと努力しています。プリキュアがたくさん登場しますし、今回は初めて音声5.1chで作ることができたので、劇場の大画面で36人の活躍と素敵なサウンドを楽しんでほしいです。 (了)
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画像:(C)2014 映画プリキュアオールスターズNS3製作委員会取材・文/構成: 平池 由典