お互いにリスペクト――社長不在の16ヵ月間も、お二人で会社をハンドリングされていたということですが、重要事項はどのように決めているのですか。
川合 会社の経営に関わることは相談し合って、相手の合意を得てから決めるようにしています。マーケティングは土合、セールスは川合と、お互いに専門分野があり、リスペクトし合っているので、今のところうまく機能していると感じています。
――共同社長という体制について、客観的に、どのようにお考えですか。
川合 4月に開催したコンベンションでも申し上げた通り、良いシステムだと思います。うまくいけばすごく良いシステム。逆に、うまくいかないとこれ以上悪いシステムはないと思います。
土合 お互いがリスペクトしている限りはこれ以上良い意思決定システムはないでしょう。どんな仕事でも、自分が「これだ!」と信じたものを最終決定する際には、一旦冷静になってジャッジメントしなければいけません。共同社長というシステムは、常に客観的になれるのです。どちらかが熱くなっていても、もう一人が「本当にこれで大丈夫か」と必ず引き止めますから、これ以上きちっとコントロールできることはありません。ただし、お互いリスペクトできなくなると、考え方も違うので、どっちにも決められなかったり、足を引っ張りあったり、勝ち負けの話になるので、これは最悪だと思います。
――FOXでは、米国本社が長きに渡って、トム・ロスマン、ジム・ジアナポリスの両氏が共同社長を務められていましたが、他にも例はあるのですか。
土合 現在でも、劇場部部門のインターナショナルのトップは二人体制です。FOXとしては珍しいことではないのです。
――川合さんはコンベンションの際、「川合、土合でなくても共同社長の体制は続く」とおっしゃっていました。
川合 未来永劫とは言い切れませんが、この体制は続けるつもりでいます。
社員に恵まれている
――セールスの川合さん、マーケティングの土合さんと、お互いに専門分野がありますが、ご自身の強み、相手の強みについてはどのような印象をお持ちですか。
川合 自分の強みで言えば、業界内の人脈、新しいことへトライするフレキシビリティはあると思います。それにチャレンジする精神力もありますし、それを実行する突破力、あと、目標数字を達成する執念は強いと思います。一方、土合の強みについては、新鮮な発想力があります。そして、その発想を論理的に整理する能力がある。発想力はあっても、整理する能力がある人は少ないですから。あと、言わずもがなですが、豊富なマーケティング手法と知識。そしてそれを部下に伝えようとする熱心さ。本社に対するコミュニケーション力もある。さらに、人間的に成長しようとするポジティブな姿勢。それを見て私も刺激されています。
土合 こっ恥ずかしい(笑)
川合 良いこと言わないと良いこと言ってもらえないですから(笑)
――土合さんはいかがですか。
土合 川合の考えと似ていると思います。自分の強みで言えば、まずはマーケティング。あとは業界外の知識とネットワーク。この業界に新しく来た分、他の業界で何が起きているか、他の外資でどういう問題があるかなどは把握しているので、それは仕事に生かせると思います。あとは整理力。どこを強調していくのか、どの順番でどこを伝えるのかは得意とするところです。川合の強みはもちろん営業力です。次に、業界に関する深い知識と経験、ネットワーク。この業界でこれだけ知られている営業マンはいません。あと最後に、川合の強みとして特に伝えたいのは、人の心を動かす力を持っていることです。スピーチやメッセージ、動作だったり、人の心を動かすのが上手です。「川合さんのためならやらなイカンな」と思わせる人なんです。
川合 あと、社員の強みもここで伝えておきたい。自分と同じで、チャレンジ精神があり、真面目で、会社に対するロイヤリティが高くて、数字のコミットメントがあるんです。いざとなったら一つになって頑張る。土合ともいつも言っていますが、我々は社員に恵まれている。これがFOXの一番の強みだと思います。
今年の洋画は大幅に伸長――今後の経営方針を伺えますか。
土合 弊社は5月が期末で、6月から新年度です。6月に入り、まず社員に経営方針を伝えたいと思っているので、今(インタビューは5月13日に実施)の段階で詳細を説明することは控えさせてください。ただ、極めて普通のことではありますが、きちんとパッケージビジネスの成長を強化させることが1番大きな経営方針になります。あと、二人社長体制になった一年目なので、組織をどう安定化し、効率的にし、強化していくかが2番目の大きな柱になります。3番目は、新しいことにチャレンジしていくこと。具体的な話は6月以降に発表致します。
――1番目の「パッケージの成長力強化」という点で最も大きく捉えているのは、ブルーレイ売上の拡大でしょうか。
土合 もちろんですが、ブルーレイの成長力に比べ、DVDの落ち込みが大きいのが現状なので、ブルーレイだけにフォーカスを当てていては業界的に厳しいのではないかと思います。DVDの売上をいかにキープするか、ということも焦点になります。
――3番目の「新しいことにチャレンジ」というのは配信関係でしょうか。
川合 それも含めて、「ものすごく新しいこと」を考えているので、もう少し待っていてください(笑)。
――今年の主力タイトルを伺えますか。
土合 新作に関しては、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(6月5日発売)があります。驚くような映像美なので、ブルーレイで観るのに最適な作品だと思います。あとは『ダイ・ハード/ラスト・デイ』(7月3日発売)、『リンカーン』(夏リリース予定)も魅力的な作品です。TVシリーズでは、「ホームランド」(6月5日レンタル開始)という作品が控えています。第二の「24」にするべく力を入れている作品なので、リリース時は大きなムーブメントになると思います。あと、キーファー・サザーランド主演ドラマ「TOUCH/タッチ」(秋リリース予定)も相当期待して頂けると思います。
――吹替版を豪華に収録した「吹替の帝王」シリーズが好調のようですね。
土合 「吹替の帝王」シリーズ第1弾の『コマンドー』(右画像)は、当初5000セット限定の予定でしたが、あまりに好調だったので、急遽1万セットまで増量しました。
川合 予約開始から3日間で5000セットがほぼ完売してしまったのです。お客様から「こういうのを作ってほしいと言い続けてきた自分が、これを買えないのは許せない!」とお叱りも頂いたぐらいですから(苦笑)。
土合 カタログ(旧作)は、いかに付加価値をつけてお客様にご満足頂き、きちっと我々も収益を得られる商品を作るかだと思うので、この方向性で進んでいきたいと思います。「吹替の帝王」シリーズは今後も『ダイ・ハード』(7月3日発売)など期待作が揃っており、大きな柱に成長していくと思います。
――最後のご質問です。近年洋画のパッケージは厳しい状況が続いていますが、今年はどのように推移すると見ていますか。
川合 昨年と比較すれば、間違いなく上がるでしょう。劇場の興行収入を見ても明らかですし、「数%」レベルの伸長では収まらないと思います。
土合 私も今年は、昨年と比べれば絶対に良いと考えています。ただし中・長期的に見ると、やはり業界全体で洋画をきちっと守り、成長させていく努力をしていかなければいけません。
川合 「吹替の帝王」のヒットが示す通り、消費者が求めている商品をきっちりと提供することができれば、まだまだビジネスのチャンスは広がっていくと思います。 (了)
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川合史郎(かわい しろう)代表取締役社長 兼 営業統括本部長(左)
1961年大阪府出身。1984年青山学院大学 経済学部卒業。1997年7月に営業部長として入社。2002年営業統括本部 本部長に就任。入社以来、数々の記録的な営業成績を収め、日本のマーケットと弊社ビジネスの拡大に多大な貢献。
土合朋宏(どあい ともひろ)代表取締役社長 兼 マーケティング本部長(右)
1966年東京都出身。1990年一橋大学 商学部卒業、1993年一橋大学院 商学研究科卒業。 2011年1月にマーケティング本部 本部長として入社。前職の日本コカ・コーラ株式会社ではマーケティング本部のバイスプレジデントとしてキャリアを積む。
インタビュー/文・構成:平池 由典