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東宝(株) 市川南取締役が語る!

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東宝(株) 市川南取締役が語る!

2013年02月04日

今の流れを大きく変える必要はないが・・・

――自社での企画開発については、今までとまた違うテイストのものに挑戦してみようということはありますか。

市川さん13年②.JPG市川
 この5本で言うと、ベストセラーの映画化という意味では手堅いですけれど、『永遠の0』は戦争を題材にしていますので、これはちょっとチャレンジですね。製作費もある規模にはなっています。企画が始まった時には不安視する声もありましたが、原作が売れ続けています。夏のたびに文庫本が売れるそうなのですが、昨年秋にも文庫の売上ベスト1になっている週があったり、原作力が、企画が始まった頃よりはるかに強くなっています。撮影はもう終わっていますが、山崎貴監督ですので『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズのような感動的な部分に加え、VFXの第一人者ですから、大胆にCGを使った初めての戦争映画になりそうです。零戦の空中戦が、見たこともないアングルの映像でくり広げられますので、感動作としても、戦争物としても新しい面白さになるのではないかと思っています。


――今後自社製作作品で、アニメもしくはオリジナル作品で挑戦してみたいというのはありますか。

市川
 映像事業部にアニメ事業室もできましたので、チャンスがあればアニメ事業室とも連携を取ってやってみたいです。『あなたへ』などもオリジナルですが、オリジナル脚本の映画化も、今後はやれる時にはやってみたいと思います。


――映像事業部の方でODS(非映画コンテンツ)も含めた作品を作り始めていますが、番組編成上そちらとのバランスというのは考えているのですか。

市川
 映像事業部は東宝の配給作品とは違った作品を編成しています。それはやはり300スクリーンで公開するのが相応しいものなのか、少数のブッキングが向いているのかということの違いで、ODSは主に100スクリーン前後のスクリーン数で配給しています。そちらの方は宣伝費もおのずと限られますから、大量宣伝しなくてもすでにお客さまがいるような作品というのが、ODSに向いているのでしょうね。映画事業部とは公開時期を調整したりしています。


――昨年は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』、『ONE PIECE FILM Z』などが大ヒット。アニメが映画興行を牽引していくというのは、今後も続きそうですね。

市川
 30代より下はアニメで育っていますから。大人になってもコミックを読み、アニメを観続けるという人が年々増加しているわけで、これが当たり前の姿になるのではないでしょうか。私どものアニメのビジネスモデルは、ジブリさんを除けば、基本的にコミックがあって、地上波のアニメがあって、劇場版という流れですが、そうではないヒット作が生まれています。『魔法少女まどか☆マギカ』のように、深夜TVアニメからの大ヒット作が出て来ているので、アニメのビジネスモデルも少しずつ変化しているのだと思います。


――おそらく以前であれば、コアなファンしか見ていなかったような作品に、一般のお客さんも巻き込んで大きくなっているところがあります。例えば『ヱヴァ』はもうアニメ、映画というものを超えて、社会現象化した感があります。そこまで『ヱヴァ』を育てたというところがありますが、その辺が日本のアニメマーケットのちょっと独自なところ。
 東宝としても、定番アニメに加えて、『HUNTER×HUNTER』など新たな柱が出て来て、先ほどの細田監督などオリジナル作品でも勝負できるようになって来ると、年間を通じて番組編成が楽になってきますね。

市川
 私どもは、基本は90年代から配給自体がアニメを柱としているわけですよね。春休み、夏休みとゴールデンウィークに、『NARUTO』を入れた5大アニメがいてくれているお陰で、むしろその間を実写で埋めているという発想です。当分そこは揺らぎないのではないかと思います。


――2014年公開作品も数本発表されていますが、すでに14年、15年も見すえて動かれていると思います。作品は揃いつつありますか。

市川
 決まってはいませんが、14年に向けての作品は集まりつつあります。大きな流れは、そんなには変わらないようには思います。ただこれが5年先に変わらないのか――5年先、10年先を見ると、同じことだけやっていてもいけないとは思います。無理に変える必要はないので、新たな流れを見逃さず、先読みして早めに対応していくということなのだと思いますが。それはどの業界でも当たり前ですね。


――そこを読むのがなかなか難しいところです。

市川
 有難いのは、今の流れを大きく変える必要はないので、少しずつ、異色なものを混ぜたり、新鮮なものにも触手を伸ばすとか、そういう工夫、努力はしなければいけないと思います。


若い世代のプロデューサーが育ち、いい時期にさしかかっている

――一方で、昨年4月の人事で島谷(能成)社長体制がさらに強化されたという印象を受けているのですが、この人事と組織の再編を含めた効果というのは、昨年出ましたか。

市川
 山内(章弘)が映画企画部長になりました。山内はテレビドラマと映画『TRICK』の生みの親で、映画調整部に7年いたのですけれども、その間に映画のプロデュース作品も数多くやったキャリアがあります。映画の企画も活性化していますし、テレビの企画も以前より活発になっています。TBSさんで昨年10月クールのTBSさんの「MONSTERS」は、映画企画部所属の蒔田光治――『TRICK』の脚本家ですけれども、蒔田のオリジナル脚本の連ドラでした。2時間ドラマ、連続ドラマも活性化しています。


――山内さんが部長になったことで、またさらに活性化したということですね。映画企画部の川村元気さんや若手のプロデューサーが力を付けてきたようですが。

市川
 そうですね。山内映画企画部長の下、川村の世代、30代半ばのプロデューサー、『あなたへ』をやった佐藤善宏、『悪の教典』『僕等がいた』をやった臼井央と、同期の3人が映画企画部に揃っています。その前後の年のプロデューサーも成長していますし、今後自社製作の方もいい企画があれば増やしていきたいと思います。自社製作にあまり積極的でない時代も続いていたのですが、若い世代のプロデューサーが育ち、今は自社製作という面ではいい時期にさしかかっているかなとは思います。

 東宝映画も本社から製作部長で佐藤毅が行きまして、東宝映画も年に5本程度作れる力がついてきました。映画調整部は宣伝部の方から上田太地が映画調整室長になりました。ずっと宣伝部のこの10年を支えてきた名宣伝プロデューサーでしたから、社内外のコミュニケーションはバッチリです。プロデューサー、テレビ各局から出版社などにも顔が広く、編成業務も上田がしっかりやってくれています。うまく調整・企画部門は回っているように思います。


――市川さんご自身も東宝映画の社長になり、社長業もやらなくてはいけない立場になったわけですが。

市川
 東宝映画というのは東宝本社が立てた企画の製作部隊ですので、本社の企画が増えることが東宝映画の活性化につながります。今は私が両方見ていることがメリットになって、比較的うまくいっているようには思いますね。


――島谷社長とは、新たなことに取り組んでみようというようなことは、相談されたりしているのですか。主に映像、映画事業に関してですが。

市川
 それは社長になる前からいつも話してきたことですので、あらゆる意味で先々への備えを怠らないということなのだと思いますけれど、そういうことは常に話しています。先を読むといっても、大きな流れの中の変化を見逃さないということなのだと思います。


――観客の変化をいかに先読みして、そこに番組を提供できるかということにかかってくると思いますが。

市川
 ところがそれがなかなか難しいので、あまりそれに敏感になり過ぎてもいけない。数も多いですから、やはり普遍的な感動を持った作品を提供し続け、その中に時代性とか時代の変化というものが少しずつ入ればいいのだろうとは思います。お客さんの中で変わらない部分は絶対にありますから。


――依然として独立系の中小の会社は厳しい状況が続いてますが、インディの製作会社、プロデューサーとも、さらに積極的に組んでいかれますか。

市川
 独立系のプロデューサーの皆さんともしょっちゅうお話ししていますので、ご一緒する映画も増えて来るとは思います。


――制作、配給、宣伝会社含め、少し淘汰は落ち着いて来た印象ですが。次の世代のクリエイター、監督が育って来ないと、映画ビジネス自体も将来的に厳しくなってしまいます。ここをどう育てられるかということもありますよね。

市川
 クリエイターも30代、40代と着実に増えていると思います。テレビ局のディレクターさんを入れれば、映画を撮れる人というのはたくさんいます。CMからいらっしゃる方もいますしね。


――そういう才能もピックアップして起用していくということでしょうか。

市川
 自社製作といっても5本しかないので、なかなかめぐり会うチャンスはあるようで少ないかもしれませんけれど、いい方がいればそれは年齢、キャリアを問わずおつき合いしたいです。


――では、今年の東宝の配給作品、製作作品に期待しております。

市川
 ぜひご支援のほどよろしくお願いいたします。(了)

(インタビュー/文・構成:和田隆)市川さん13年⑤.JPG



Profile

市川 南(いちかわ・みなみ)


平成元年(1989年)学習院大学文学部卒業、東宝株式会社入社。
平成18年(06年)に映画調整部長。
平成23年(11年)に取締役 映画調整担当兼映画企画担当兼映画調整部長。






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