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文化庁映画週間シンポジウム 「クラウドファンディングは本当に映画を救うのか?」

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文化庁映画週間シンポジウム 「クラウドファンディングは本当に映画を救うのか?」

2012年11月09日

――クラウドファンディングと映画の未来――

 第9回文化庁映画週間が、10月20日から27日まで六本木ヒルズとシネマート六本木で行われ、26日にはシンポジウム(主催:文化庁、共催:公益財団法人ユニジャパン)が開催された。
 シンポジウムは、映画製作や上映活動における新しい取り組み事例や、映画文化の最新動向をアカデミックな視点で紹介するもの。

 ここでは、第一部「クラウドファンディングは本当に映画を救うのか?」の模様をリポートする。


前半全体.jpg


 莫大な製作費をかけられるハリウッド映画と異なり、世界中のインディペンデントの製作者たちは、今も昔も資金確保に苦労している。そんな中、インターネットでスポンサーを募る「クラウドファンディング」は、従来の資金調達の方法を変え、現状の突破口となり得るのか…。

 当日は先ず、モデレーターを務める関口裕子氏(ジャーナリスト/アヴァンティ・プラス代表取締役)がクラウドファンディングの現状を説明し、梅津文氏(GEM Partners代表取締役)が事前のマーケティングに基づくデータを披露した。
 続いて、日本でもヒットしたドキュメンタリー『ハーブ&ドロシー』で監督とプロデューサーを務めた佐々木芽生氏が登壇。続編『ハーブ&ドロシー 50×50(原題)』(2013年3月30日公開)の製作をめぐるエピソードの数々を披露した。
 佐々木氏の後には、第25回東京国際映画祭WORLD CINEMA部門上映作品『ストラッター』のカート・ヴォス監督(脚本・製作・撮影も)が登壇。この作品は、米国最大手のクラウドファンディング・プラットフォーム「Kickstarter(キックスターター)」で製作資金のすべてを集めており、その成功事例を紹介した。



『ハーブ&ドロシー 50×50』で製作資金を調達

 『ハーブ&ドロシー 50×50』は、ロングランヒットを記録したドキュメンタリー『ハーブ&ドロシー』の続編。2013年3月30日より新宿ピカデリーほかで公開される。
 今作は、ニューヨーク在住のアートコレクター、ハーバートとドロシーのヴォーゲル夫妻が、全米50の美術館に50点ずつ、合計2500点ものコレクションを寄贈するプロジェクトの模様を記録した。
 製作資金の一部をクラウドファンディングを活用して調達したことが、大きな話題となっているが、佐々木芽生監督(写真下)はその紆余曲折を、大要次のとおり語った。

佐々木氏.jpg▼『ハーブ&ドロシー』で初めて映画を作り、映画を公開するまでには、とんでもないお金がかかることを、撮影を終えてから知った。そのくらい何も知らないで撮り始めたこともあって、1本目はとても苦労した。2本目となる『ハーブ&ドロシー 50×50』については、前作に対する評価もあったので、応援してくれる人がいるはずだと思っていた。ところが、アメリカの企業や財団を回ったところ、なかなか助成が下りない。アメリカ人は続編に興味がない、新しいことを求める、そういった気質が影響したようだ。また、財団に助成を申請するにはその種の技術が必要だということもわかった。結局は2団体から少額の助成が下りたが、それだけでは製作費に間に合わない。そんな状況にあって、クラウドファンディングという方法があると知った。

▼そこから色々調べ始めた。“一般の人から少額を集める”というクラウドファンディングの考え方は、『ハーブ&ドロシー』の夫婦の精神にも通じるところがあると思い、Kickstarterでの資金集めを決めた。準備に4ヶ月をかけて、実際には2011年9月から募集を開始した。サポーターへのプレゼントを用意し、ツイッターやフェイスブックを通じて告知をすれば、お金は難なく集まるだろうと思っていたが、それは大きな間違いだった。

▼クラウドファンディングで資金を集めるのは、周到な準備が必要になる。全ての製作予算の中のいくらを集めるのか。そのために何をすればいいのか。サポーターへの特典、会報、募集する期間など、決めることは山ほどある。Kickstarterでの成功例を調べて、自分の映画に当てはめて考えていった。私1人ではサポーターをフォローする作業に限界があるので、新たにスタッフ3人を含む4人フルタイム体制を作り、ツイッターとフェイスブックの担当を決め、毎日ニュースレターを送るなどして、サポーターとのコミュニケーションを密にしていった。本当は10~20万ドルを集めたかったが、達成できなければゼロになってしまうことも考慮に入れて、最終的には“60日間で、5万5千ドル”を集めることを決め、2011年9月6日にオープンした。

▼スタートしてから最初のうちに、お金がちょっとは集まったものの、その後は動きのない状態が長いこと続いた。ニュースレターやプレスリリースを出しても、金額が上がらない。そのうち私も疲弊してきて胃が痛くなり、他のスタッフや妻ドロシーも心配を始め、皆がやきもきしていた。そのまま60日のうち45日が過ぎてしまい、その時点で集まっていたのは3万ドル以下。残り15日しかない中で、助けてくれたのは、日本人だった。

▼『ハーブ&ドロシー 50×50』の製作資金調達に関して、日本では一切告知をしていなかった。それは、最後の“頼みの綱”として、取っておきたかったから。1作目公開に際して名刺交換をした500人に対して、私からメールで一斉送信し、これまでの経緯を説明した上で、助けを求めた。その結果、どんどん金額が上がっていった。やがてソフトウェア開発会社、ハイパーギア(さいたま市)の本田克己社長から「私が2万ドルを出すことで、あなたの夢が叶うなら、出しましょう」と連絡が入り、一気に目標金額の5万5千ドルに達することができた。結局は、8万7千ドルが集まった。日本人はサポーター全730人のうち109人で、8万7千ドルのうち4万ドル弱を出してくれたことになる。

▼最終日は、ニューヨークでカウントダウンを行い、その模様をユーストリームで生中継した。振り返ると、Kickstarterで資金集めをしていた60日間、他のことは何もできなかった。正直なところ、映画を作るよりも大変だった。映画作りは楽しいことなので、大変だとは思わない。資金集めは筋トレと同じで、何度も資金集めをしていくうちに、その種の筋肉がついてくる。戦略的に、私は高額の資金援助の可能性のある人に、他のスタッフは少額の人に、それぞれアプローチしていく二本立ての方法をとった。実際に会う場合には、私たちがファンドレイジングをしていることを相手は知っているので、話も進めやすい。会った人の中には「Kickstarterは税金が免除にならないからダメだけど、他の方法ならいい」という人もいて、実際のところ、Kickstarte以外で1万ドル近く集まった。

▼クラウドファンデイングは、軽い気持ちでは決してできない。相応の心構えが必要だ。私の場合、8万7千ドルが集まったことを大変嬉しいと思う反面、730人の期待を裏切らないようにしなければならないという責任感も大きくなった。サポーターに約束した特典については、DVD以外のものは全て、年内にサポーターに渡すことができる。支援して良かったと、サポーターには満足してもらえると自負している。




全体後半.jpg

 
 上記のとおり、佐々木芽生監督は『ハーブ&ドロシー 50×50』で製作資金の一部をKickstarterを通じて集めたが、日本公開時の配給・宣伝の費用についても、クラウドファンディングの手法で資金募集を現在行っている最中。

 シンポジウム第一部の後半では、クラウドファンディングをめぐる活発なディスカッションが行われた。前半にも登場した関口氏、梅津氏、佐々木監督に加え、クラウドファンディングサイト「motion gallery(モーションギャラリー)」を主宰する大高健志氏、映画プロデューサー/ブリッジヘッド代表取締役の小川真司氏が登壇した。



日本国内の配給経費1000万円を集めたい

関口

 motion galleryのこれまでの経緯、『ハーブ&ドロシー 50×50』のクラウドファンデイングについて、改めて紹介してください。

大高氏.jpg大高 (写真左)
 motion galleryは、購入型モデルのクラウドファンディング・サイトです。映画にフォーカスしており、その他にはアート関係にもサービスを提供しています。motion galleryを始めたきっかけは、芸大(大学院)で映画製作を学ぶ中で、作り手の実情を知りました。有名な監督であっても、お金が集まらない。文化というものは、作ったものを多くの人に見てもらうことがマストです。
 motion galleryを1年前に立ち上げて、成功例の第1弾となったのが、アッバス・キアロスタミ監督作『ライク・サムワン・イン・ラブ』です。560万円が集まりました。この映画は、日本・フランス合計で2億円の製作費。そのうち日本側1億円の中の5%、金額にして500万円を集めて、製作費として使おうというものでした。
 一般の人が、映画製作にお金を出すという新しい流れができつつあります。motion gallery全体で、プロジェクト成功率、つまり目標の金額に到達したのは72~73%ですが、目標設定額が必ずしも高くありません。今回の『ハーブ&ドロシー 50×50』の場合は、目標金額が1000万円で、motion galleryにおいて過去最高の金額となっています。

佐々木
 インディペンデントが映画を製作するための手段として、クラウドファンディングを広めたいと思っています。映画を作るには、お金がかかるということを宣言したいです。集めるお金も数十万円規模では、実際にはあまり役に立ちません。欧米ではクラウドファンディングで100万ドルを集めるケースもありますが、日本ではその10分の1のケースもありません。
 今回は1000万円を集めて、日本公開にあたり実際にかかる経費、つまり宣伝や配給、来日のための渡航費などに充てます。また、夫ハーブが亡くなっため、撮影が3ヶ月伸び、製作費が当初の計画よりも余計にかかりましたので、この製作費の超過分にも充てます。1000万円あれば、しっかりした形で公開できますし、私としても責任感が高まりますので、是非チャレンジしたい意気込みです。
 個人の寄付市場はといえば、日本はアメリカの100分の1しかありません。今回のプロジェクトをきっかけに、映画の配給・宣伝のクラウドファンディングを広めて、しかも1000万円単位で集まるところを目指したいです。

映画を公開するチームの1人になってもらう

関口氏.jpg関口
(写真右)
 大作映画も製作しているプロデューサーの立場から、小川さんはクラウドファンディングについて、どう思いますか。

小川
 やはり、1000万円単位で集まらないと、効率的ではないと思います。映画を作る際は、配給会社、制作会社、プロデューサーら多くの人が関わって、その役割の中で資金調達をしていきます。全く業界外の人が、努力次第で映画を作るチャンスが生まれるわけですから、クラウドファンディングが広まる意味はあります。
 目安として、製作費1~2億円の映画を作る場合で20%、金額にして2000~4000万円くらいを集められるといいですね。低予算の映画だと、4000万円あれば映画を1本作れてしまいます。お金が集まるようになれば、映画製作の状況が変わっていきますね。

佐々木
 さすがに4000万円は無理ですね。1000万円でも、いま苦しんでいます。10月から始めて、集まったのはまだ100万円(※11月8日現在、200万円強)です。1作目がヒットしましたし、もっと盛り上がると思っていたのですが…。残念な気持ちです。

大高
 でも、motion galleryとしては良い方です。日本においてはお金の集まり方が早い、という認識を持っています。佐々木さんは、監督して映画を作り、プロデューサーとしてお金集めもする。作り手とプロデューサーをはっきりと分けていかないと、おかしくなってしまいますね。

佐々木
 Kickstarterでクラウドファンディングをやった時は、映画の製作そのものは止まっていました。その後、資金のサポートを得て撮影、編集もできましたし、Kickstarter以外のところでも資金が集まり、現在は、完成に向けて作業が進んでいます。
 クラウドファンディングを通じて資金集めをするのは、公開のお手伝いをしてほしいという主旨です。アプローチの仕方も寄付を募るのとは違っています。皆でこの映画に参加してください。映画を育てて、多くの人に見てもらいたい。そのチームの1人になってください。そういうことです。こうした考え方は、motion galleryでも、Kickstarterでも同じです。

プロジェクト全体をマネージする組織が必要

関口

 クラウドファンディングは、巻き込み型とでも言いましょうか。今まで映画の製作出資と言えば、B to Bが当たり前でしたが。

小川氏.jpg小川 (写真左)
 私はアスミックに25年間在籍して、今年、自分の会社を作りました。インディペンデントのプロデューサーとして思うのは、映画製作において最も資金が逼迫しているのは、開発費の部分だということ。開発費は一番大切なのですが、実際は手弁当で行われている現状が往々にしてあります。
 クラウドファンディングは、企画に賛同した人がチームに参加するわけですし、公開に向けたプロモーションとしても有利だと思います。しかし、これをマネージする人が必要になるでしょう。
 佐々木さんのように、作ることとお金集めをすることの両方をやるのは、とても大変なことです。マネージする機関、組織が出てくると、利用する側としてはありがたいです。寄付する人、購入する人にとっても、中身が見えやすくなりますし。クラウドファンディングの運営母体が、マネージする手もあると思います。いずれにしろ、お金を出すということは、何か価値を見出して買い求める消費行動ですから、資金提供者へのフォローをどこまでやれるのかが肝心だと思います。逆に、大金が集まった場合、マネジメントの体制がしっかりしていないと、フォローする際に漏れが生じてしまう可能性もあるでしょう。
 何万人もの会員を抱えた既存のプラットフォーム、例えばクレジットカード会社などとタイアップして、そのポイントで寄付する方法などもあり得るのではないでしょうか。

大作映画がクラウドファンディングを育てる

関口
 クラウドファンディングの認知度を上げるには。

梅津氏.jpg梅津 (写真右)
 現状、クラウドファンディングで資金集めをしているのは、『ハーブ・アンド・ドロシー』のようなアート系映画、ノンスター映画が中心です。アッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』のようにエッジの立った作品が成功していますが、今後は例えば“富士山を世界遺産にしよう”といった“夢を叶える”ようなプロジェクトを起案して、お金を集める方向性もあるかもしれません。
 今後の一つの大きな流れとして、コンテンツもプラットフォームも、両方を成長させようという考え方が大事になると思います。クラウドファンディングのプラットフォームが成長すれば、知名度の低いアート系映画を支える土台になりますし、まさに理想的だと思います。
 プラットフォームを育てる役割を果たすのは、大作映画でしょう。映画ではないですが、分かりやすい例として、AKB48があります。彼女たちの成長・応援のために、ファンはいくらでもお金を出します。ファンが映画を応援するためにお金を出す、そういうチャンスの場としてクラウドファンディングのプラットフォームを活用するのは、大きな映画でなければできません。製作資金に困っていない作品でも、宣伝ツールと捉えて、使っていけばいいのではないかと思います。

大高
 映画の宣伝につながるという考え方は、クラウドファンディングのもう一つの側面です。マス広告、純広告ではターゲットになかなか刺さらない時代になりましたが、映画の場合はそうした状況への対応が難しいものです。その解決に、クラウドファンディングは有効です。

佐々木
 前作『ハーブ&ドロシー』は、配給会社に全て断られ、自分で配給するしかありませんでした。どうすれは映画を見てもらえるか。コアな観客層は誰なのか。老後暮らしの人には、どうやったら情報を届けられるのか…徹底的に詰めていきました。広告は一切出さず、ソーシャルメディアに大いに助けられました。
 新作『ハーブ&ドロシー 50×50』ではクラウドファンディングを活用したことで、サポーターの方々に「自分の映画」と最初から思ってもらえました。公開した時点でそういうサポーターが何百人、何千人もいるということは、大変ありがたいことです。(了)



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