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東宝(株)市川南取締役に聞く!

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東宝(株)市川南取締役に聞く!

2012年02月17日

バラエティに富んだ自社製作作品

 ―今年の東宝幹事作品についての自信のほどは。

市川
 今年は幹事作品ものが多いんです。6本公開します。昨年12月から数えますと、「friends もののけ島のナキ」、「日本列島 いきものたちの物語」、「僕等がいた」前後篇、「宇宙兄弟」と「あなたへ」の6作品です。6作品というのは久しぶりなんじゃないかと思います。アニメからドキュメンタリー、ラブストーリー、そして高倉健さん主演作までバラエティに富んだ作品になっていると思います。

 「日本列島は」はプロデューサーの一瀬(隆重)さんからの企画で、4年以上前にはじまった作品。洋画では「アース」「オーシャンズ」があり、日本にこういうものはないので企画が新鮮と言えば新鮮ですよね。それでやってみようということになりました。

 「僕等がいた」は、アスミック・エースのプロデューサーの荒木(美也子)さんがはじめて、博報堂DYメディアパートナーズの春名(慶)さんがそこに加わり、東宝も入って3社で共同開発しました。6年にわたるラブストーリーなので、前後篇にして正解だったと思います。前編はラブスーリーの王道のような作りなんですが、後編は韓流ドラマ顔負けの作りで、公開を5週間ずつ直結で10週間興行するというのも新しい試みです。

 「宇宙兄弟」は、原作が「モーニング」で連載されている青年漫画としては今一番人気実力ともに高い作品だと思います。宇宙飛行士になろうと誓った兄弟の話で、ドリーム感が溢れるストーリーに旬なキャスト、今の時代にマッチした作品ではないかと思います。各社さん、「はやぶさ」をドキュメンタリーを題材にして、宇宙ものをやっている今、東宝としてはコミック原作の「宇宙兄弟」ということになりますね。

 高倉健さんの企画というのは、映画プロデューサーの多くの方が、ずっとチャレンジしようとして、結果、「単騎、千里を走る。」から6年間実らなかったわけですけど、たまたま亡くなったプロデューサーの市古(聖智)さんが残された企画書を東宝でやりませんかとなって、降旗(康男)監督と一緒にまとめていった脚本に高倉さんが乗って下さったということです。撮影現場も極めて安定していて、去年約3ヵ月かけて撮りましたけども、高倉さん中心にキャストもスタッフ一致団結。映画らしい映画の撮り方で、オールラッシュまで観ましたが、降旗監督による映画らしい映画になりそうです。夫婦のラブストーリーなので、あらゆる世代のご夫婦に観て頂きたいのですが、特に女性に向けて売っていきたいと思います。今年は期待できる自社製作作品が揃ったので、興収もなるべく上にいきたいということですね。

東宝邦画系(12年).jpg


 ―今後発表予定の追加作品はありますか、最終的な年間本数はどれくらいになるのでしょう。

市川
 最終的には昨年よりも多いかもしれないですね。30本強です。「踊る」「海猿」「ALWAYS」という大きいシリーズ3本が固まっているのは今年大きい。目標は、千田(諭)副社長が仰った9年連続となる興収500億円突破でしょう。


 ―昨年、邦画の公開本数が前年より増えましたが、一方で独立プロダクションの破産が続きました。外部からの持ち込み企画は減ってきたりしていませんか。

市川
 減ってはいないと思います。東宝に直接持ち込まないでTV局さんで成立しているケースもありますし、そんなに減っていないと思います。東宝でやる場合は「日本列島」のパターンであったり、「あなたへ」もカメラマンの林淳一郎さんのブリックスというプロダクションから持ち込まれた企画を一緒にアレンジして作っていったパターンです。ケースバイケースで成立するものもあれば、途中でダメになってしまうものもありますけども、いい企画があれば積極的に組ませて頂きたいですね。


邦画バブルもちょと一息

 ―島谷(能成)社長体制が昨年スタートし、市川さんも取締役となりましたが、島谷社長と今後の会社としての取り組みなどついて、改めてどのような話をされていますか。

市川
 邦画バブルみたいな言葉が一時期あったんですけど、たぶんそれは2010年くらいまでの3年間でちょっと一息ついたようには思います。つまりその3年間というのは、製作費で言うと10億円クラスの作品が数多く作られました。例えば、「20世紀少年」の3本を同時に作り始めるというようなものが象徴的です。そういう時代が過ぎてしまっていますが、東宝としては年間興収500億円以上を維持していくのが使命だと思います。
 今やっていて上手くいっていることはそのまま伸ばしていく、シリーズもののアニメは少しでも新鮮さを失わずに続けていき、TV局さんとのコラボもより新鮮さを失わずに新しいものを一緒になってヒットさせていくかですね。

 やはりその中に異色作、昨年で言えば「モテキ」、一昨年であれば「告白」「悪人」といったちょっとずつ新しいことだったり、最近やっていなかったことが新鮮味になってくるので、上手くいっていることは基本的には変えないのですけど、その中でちょっとズラして発想するという取り組みが年に何本できるのかと考えてはいます。それはドキュメンタリーがあるのもそうだと思いますし、高倉健さんの映画ということでもそうです。10年ぶりの新作ということが、ある種の新鮮さになってくればということです。30本のラインナップ編成をしていく中で、新しいチャレンジをその中に少しずつ混ぜていくことが大切なのではないでしょうか。


厳選しながら新鮮さを加えていく

 ―そういった意味では、ひと頃のTV局映画の勢いがなくなり、ドラマの映画化が飽きられてきたのではないかと言われたりもしていますが…。

市川
 TVドラマの映画化をTV局さんが厳選しているというか、映画に向いたものだけを映画にしているのだと思います。昨年ですと「アンフェア the answer」や今年の「ライアーゲーム 再生」「SPEC」など、コアなファンの付いているものの方が映画に向いているのだということです。視聴率だけで判断するのではなく、映画に向いているのか判断基準が厳しくなって、その結果、TVドラマの映画版の本数が減っているということだと思います。そこに新鮮さを加えられるかは、作り手側が工夫していくしかないですよね。

 新鮮味ということで言うと、配給・宣伝の在り方も同様で、TVの視聴者として観ていると、毎週毎週次から次に、近年の宣伝はみんな上手くなっていますから、同じようにエンタメ作品が宣伝されると、なかなかその中で目立ちにくくなっているような気がします。それぞれの作品の新鮮さをどう見せていくのか、配給・宣伝の課題にもなっていると思います。イベントのやり方とか、初日舞台挨拶の絵作りとか、うちだけでも年間30本あって、そこに他社が加わると、お客さんは麻痺しちゃうかもしれないですよね。みんな上手くなっているだけに、配給・宣伝の課題でもあります。


映画を小さい一ジャンルにしない

 ―昨年、映画興行が大幅減となったわけですが、映画ビジネスの今後の展望についてはどのように考えていますか。

市川
 私の立場からすると、やはり作品ということです。音楽を聴く人がいるけどもCDを買わなくなったという現象があるように、映画もそういう方へ行かないようにするにはどうすべきか。つまり映画好きという人たちが、CDを買うような音楽マニアのように小さい一ジャンルにならないようにしないといけないですね。音楽ファン、読書好き、映画好きという小さい一つのジャンルに収まらないようにするにはどうしたらいいか。映画は、ジャンルを超えて“現象”にすることでお客さんを集めることが出来る娯楽。やはり映画ファンだけでなく社会現象にして、浮動層というか、コアな映画ファン以外の層を映画館に集めるような作品が年に何本提供できるのかということに尽きるような気がします。

 また、ハズレのない作品を供給し続けることも大切なのだと思います。観たけどつまらなかったので映画館に行かなくなるということが怖い。大公開・大宣伝されるものというのは、ある満足感のあるエンタメ作品であるべきで、いつ劇場に行っても「映画って面白い!」と言わせるしかありません。

 家庭用のTVが綺麗になり、大きくなって、ブルーレイで見れば変わらないじゃないかという声もありますけど、楽観的な言い方になりますが、どんなに家で美味しい食材が食べられても、やはりみんなレストランに行くように、映画館は特別な空間なのだということを信じていくしかないと思います。

 ―今年も日本映画界を牽引していって貰いたいと思います。(了)
(インタビュー/文・構成:和田隆)



P1180922.jpgProfile
市川 南(いちかわ・みなみ)


 平成元年(89年)学習院大学文学部卒業、東宝株式会社入社。
 宣伝部で「千と千尋の神隠し」(01年)等を担当。平成13年(01年)より映画調整部で配給作品の編成、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)「いま、会いにゆきます」(04年)等自社製作作品のプロデューサーを担当。
 平成18年(06年)より映画調整部長。23年5月に取締役に就任。








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