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インタビュー:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

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インタビュー:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

2011年12月20日

塚越隆行ゼネラル マネージャー

2012年は新しいフランチャイズのスタート!

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 ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンは2011年、外国映画興収の上位10本中、「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」(興収88億5千万円)、「カーズ2」(興収30億円)、「塔の上のラプンツェル」(興収25億6千万円)、「トロン:レガシー」(興収21億2千万円)と、4本をランクインさせた。これは洋画配給会社の中ではトップの成績。
 これにより同社は前期(2010年10月~2011年9月)も好成績を収めることが出来たが、「アリス・イン・ワンダーランド」(興収118億円)、「トイ・ストーリー3」(興収108億円)と2本の興収100億円超えを記録した2010年に比べると、「もうひとつ何かすっきりしない後味がある」と塚越隆行ゼネラル マネージャーも振り返る通り、2011年は映画業界にとって様々な要因が重なり、考えさせられる年となった。
 そんな中、9月末に発表した2012年以降のラインナップは、同社の今後の考えを示すひとつのメッセージだと捉えられる。12年度以降、ディズニーはどこへ向かうのか―。塚越GMに加え、宣伝の高橋雅美マーケティング エグゼクティブ ディレクター、営業の木村光仁セールス エグゼクティブ ディレクターの3氏に、今後の戦略、展望などを聞いた―。
(記事・構成:和田隆)




ディズニー・スタジオの一つのメッセージ

 ――2011年、前年度(2010年10月~2011年9月)の成績を振り返って頂けますか。

 塚越隆行GM
(以下、塚越) おかげさまで、本当によくできたと思います。ただ、「今年」という1年を振り返ってみると、もう一つ何かすっきりしない後味があるのですね。それはきっと映画館にお客さまがたくさん来てくださるような実感――「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」でしたら、やはり100億円を超えたかったです。そこにいかなかったというところに、もう少し考えなくてはいけなかったこと、業界としても出来たことがあったのではないかと思います。来年というか今期ですけど、もっといろいろなことを考えていかなくてはいけないと思います。


 ――そういった中で9月末に2012年以降のラインナップ発表をされました。

 塚越
 一つのメッセージになったのではないでしょうか。「ディズニー・スタジオはこういうことを考えています!」という。


 ――マーベル作品やディズニー作品など、12年は新しいフランチャイズのスタートですね。

 塚越
 戦略の上に乗っている1年です。ディズニーのアニメーションがあって、ピクサーのアニメーション、ディズニーのライブアクション、そして今度新しくマーベルのライブアクションがある。これがディズニー・スタジオで配給していく作品ですが、それにドリームワークス作品があり、今年1月に公開した「RED/レッド」のようにアメリカからアクイジションものも来ますから、いろいろなカテゴリーで非常に充実させられていると思います。
 それぞれ将来にわたっての脈々とした作品の方針に従って作られてきます。12年というのはその一過程ですが、「ジョン・カーター」は新しいフランチャイズの柱に育て上げたいですし、「メリダとおそろしの森」というのはピクサーの進化する一過程であり、マーベルの「アベンジャーズ」は今までパラマウントさん、ソニーさんが手掛けられ、私どもの配給になって初めての作品になるわけで、ここからディズニーとしての歴史が始まるわけです。私どもの戦略の中の新しいスタートがそれぞれに起きてくる1年になるわけですね。


一番注力しているのがディズニーの「総合力」

 ――なかでもマーベル作品の「アベンジャーズ」は、まず1発目ということで、ディズニー全体で取り組まれると。

 塚越
 大きいですね。ディズニーが今何を考えているか―それは「シナジー」です。ディズニーが今一番注力しているのが、ディズニーの「総合力」なのですよ。もちろんスタジオで作品を公開するわけですが、その時のあらゆる展開というものを、ディズニー全社をあげてサポートしていこうと。それによっていろいろなメディアで使われる、グッズが販売される、テーマパークも含めていろいろなことの総合です。これが全部ひとつにさせられるというのが、ディズニーの一番の総合力ですよね。
 今までもやっていましたけれど、今まで以上にやれる体制が出来てきています。(ウォルト・ディズニー・ジャパンの)ポール・キャンドランド社長が、日本でディズニー・ジャパンとして責任を持つ、そこにビジネスが集約される。そうすると、おのずと来年の「アベンジャーズ」や「メリダとおそろしの森」、「ジョン・カーター」もどうやったら一番当てていけるかを、スタジオが単独でやっていくのではなく、総合力というところを発揮できるようになりました。

 来年以降続々とマーベルものが出て来ますから、そのフランチャイズというのを楽しんで頂けるようなふくらませ方というのを、ディズニー/ピクサーでやってきたようにやっていきたい。そのためにはまずこの「アベンジャーズ」というのを、私どものやり方で大きく当てていきたいですね。私ももう20年このディズニーにいるのですが、非常に進化しました。それが来年以降、恐らく見える形で発揮していけるのではないかと思います。
 そういう組織であらねばならないと思いますし、それが出て来ているというのは、ポールが社長になり、まとまりのある会社になってきて、そういう雰囲気もある。ですから、どんどんいい方向でディズニーが一本化されて、日本で日本独自の展開ができるようになってきている思うのです。


「効率化」をしながら「効果」を出す

 ――特にウォルト・ディズニー生誕110周年という括りで、来年1年間様々なことが計画されているようです。スタジオ部分で言えば、ホーム・エンターテイメント部門と映画部門が一つになったことによる相乗効果のところで、今年あたりはそこのシナジーはどこまで進化できたのでしょうか。

 塚越
 長い目で見てください(笑)。「効率と効果」ということからすると、両方を両立させるということは非常に難しいことだと思うのです。効果を上げようと思ったらある程度投資も必要で、その方が楽です。しかし、今私どもに求められているのは、効率化をしながら効果を出せという宿題だと思っているので、非常にそこは難しい。
 ただ、前回のインタビュー(※)でもお話ししましたが、私どもの社員、スタッフはよくやってくれています。会社の方向性をよく理解してくれていますし、その上に乗っかって効果を出そうということを、一生懸命考えてくれていますので、小さな成功例というのは出始めてはいます。みんなその方向で頑張ってくれているので、会社としても「頑張ろうよ!」という掛け声をかけているところです。
※「月刊文化通信ジャーナル」2010年12月号掲載


 ――12年のラインナップで、どれだけの効果が出せるかですね。

 塚越
 ディズニーのやろうとしているのは先ほどの総合力ということと、フランチャイズです。今年の「パイレーツ」の時に、ビデオやDVDと配信というものが、非常にうまく消費者に提案できたのです。10年であれば「トイ・ストーリー3」だったかもしれません。一つになったことによって、きめ細かく仕掛けられるというのは、大きな成果だと思います。


 ――2011年、このままいくと年間興収が1800億円前後くらいと言われています。もちろん前年の3D効果の反動はある程度予想されていたと思うのですが、それ以上に3D映画というものに対して、観客が少し“冷静”になり始めてるのかなという感じがします。そういった中で来年の3D戦略というのは―。

 塚越
 ディズニーは3Dというものを消費者の皆さんにプッシュしている方ですから、恐らく今後も3D作品は出て来ると思います。ポイントは3Dに相応しい作品かどうかです。「なぜこの作品を3Dにする必要があるの?」と思われるようなことは、ディズニーはしてはいけないと思いますし、それはちゃんと考えていきたいと思うのです。
 ですから、3Dというのは一つの見せ方だと思うので、今後も力を入れます。ただ必要に応じてというか、3Dであるべき作品は3Dにするという。やはりお客さまありきですから、お客さまに楽しんでもらえる演出の一つとして3Dがあるのであれば、どんどんプッシュします。来年面白いなと思っているのは「フランケンウィニー」で、白黒の3Dというのは見てみたいですよね。


 ――技術の進化が、よりスピードアップしていますよね。

 塚越
 ウォルト・ディズニー自身もそうですし、今のCEOのボブ・アイガーもそうですし、テクノロジーというのは顧客の満足度を上げ、エンターテインさせる上では本当に上手に使っていかなくてはいけないという風に声をかけられています。ウォルトも発明家のように新しい技術をどんどん取り入れながら、見る人を楽しませて来ましたから。技術とエンターテインメントというのは、切っても切り離せない関係にあると思います。3Dは万能ではないかもしれませんが、楽しんで頂くための一つのツールだとは思いますよ。


 ――来年1本1本いかに結果を出していけるかですが、劇場、パッケージ、デジタル配信であるとか、ウィンドウのところでのディズニーとしての戦略は、また何か新しく、出し方なども変わってくるのでしょうか。

 塚越
 ウィンドウとか価格の設定とか、消費者がどういう風に反応するのかは、研究し続けなければいけないと思っています。ですから、いろいろな実験もしてみたい。ただ一つ言えるのは、劇場での公開というのは最初のプラットフォームになるので、やはりここでまず大きくするというところに注力します。
 全体としてパッケージはやはりちょっと元気がないですし、映像配信もまだ立ち上がっていません。いろいろな所が参入して来て、配信だけで言うと私どもの売上では5倍、6倍になってきているのですが、まだトータルの規模というのは、パッケージの落ち込みをカバーするまでに至っていません。パッケージと配信のところのウィンドウ、パッケージの価格、商品化のところの商品戦略とか、この辺はもっと勉強しなければいけないと思っています。ですから、映画を大きく当てていくこと、それから続くプラットフォームの中で、もっと消費者の方に支持されるやり方を考える――大きく言えばこの二つですね。


成功させなければ次がない、全勢力を注ぐ

 ――このラインナップが揃い、今期具体的に目標数字であるとか、ここまで持っていきたいという展望はありますか。

 塚越
 数字は言わないことにしています。この業界はそれでいいという風に聞いていますので(笑)。私どもの真価の問われているところで、先ほど申しました新しいディズニー・ライブアクションをちゃんと立ち上げられるかということ、それから「アベンジャーズ」というマーベルの新しい配給というのを、私どもがこれで成功させなければ次がないわけですから。私どもの持っている全勢力をここに入れなければいけません。成功し続けるというのは非常に大変なわけです。そういう意味では、ずっとプレッシャーの継続なのですよね。

 しかし戦略という意味では、素晴らしい戦略だと思うのです。本当にこれはありがたいなと思いますよ。ディズニー・スタジオというのが考えていることを、私どもが日本で展開できることというのは、本当に幸せだと思います。これをなんとか、業界のためと言うとおこがましいですけれど、映画館に見に来る人を増やすであるとか、日常の生活の中でもっともっと映画に触れる、楽しむ、そういったことに貢献できる可能性を非常に感じていますから、そういう環境を作ってくれている会社にもありがたいと思います。できるならばそれを消費者の皆さんにもわかっていただく、それがおそらく業界というものに対する貢献にもなると思いますので。非常にありがたい立ち位置に私どもはいると思います。


 ――2013年も強力な作品が控えているようですが。

 塚越
 そうなのです。ディズニー・アニメ-ション、ディズニー/ピクサー、ディズニー・ライブアクション、そしてマーベルと、今それぞれの作品戦略という形で始まっていますから、2012年、13年、14年というのがこれで垣間見られると思うのです。それが、私が一番伝えなくてはいけないことなのですけれども。だからこそ、ディズニー・スタジオが何を考えているかというのをご理解いただけると思いますし。これがメインで、それにドリームワークスと、アクイジションが少しあって、私どものラインナップになりますから、楽しんでいただけるものになっていると思います。


映画を劇場で当てる組織と仕組みを作る

 ――世界の中での日本、ジャパンの役割、位置づけというのはどうなのでしょう。

 塚越
 たぶんご存じだと思いますけれども、今ロシアや中国などが、ものすごく伸びています。そういう中で、私どもで言うと11年は、北米以外のインターナショナルの中で日本がナンバー1の国だったのです。日本の底力というのはアメリカも認めてくれていますし、主要な海外マーケットのナンバー1だと思ってくれていると思います。ですから興行の皆さんも一緒に、それを確かなものとして、維持・継続しなければいけません。


 ――「D-Life」(ディーライフ)、新BS無料放送が来年3月から始まりますね。

 塚越
 メディア展開というのが今まで一番難しかったのですよ。来年は映画の紹介にしても何にしても、「D-Life」では時間を割いてもらいたいと思っていますし、そういう風な出口が手に入ったというのは、非常にありがたいこと。2000万世帯にカバーできるメディアですから。プログラム自体はF2、要するに女性のターゲット層が強くなると思うのですが、家族も含めてご覧いただけるテレビ局になると思っています。作品の切り口によってですが、ちゃんと訴求できる強力なメディアができたわけですから、うまく使いながらやっていけるというのは大きいですよね。先ほどディズニーの総合力と言いましたが、総合力にまた一つ仲間が増えたわけですよね。これがディズニー・ジャパンの方向性だと思います。


 ――映画業界はいろいろな意味で過渡期ですし、ここをどう凌ぐのか、もしくは先を見すえてどれだけフットワークよく動けるのかで、またこの先が違ってくると思います。

 塚越
 そうですよね。「ディズニーが頑張ってくれたから、映画業界にとっても貢献の一助になったよ」と言ってもらえるようなことになりたいですよね。総合力を使うことで、そういう風に言われたいです。
 それから、映画としてのMPA(モーション・ピクチャー・アソシエーション)、「映画館へ行こう!」実行委員会、ビデオの方のMPA、いろいろな所がいい意味で有機的に結合する中で、どこか一ヵ所が頑張って何か結論を出せる時代ではない。根底にあるものとしてインフラを作っていくということがあって、作品が活きるのだと思うのです。そういう作品が大きく当たってくれたら、映画館にも人が来るし、パッケージも買うようになるだろうし、もっと言えば配信という形でも消費者が見るようになるでしょう。

 複雑に入り組んではいるのですが、全体像を見ながら、私どもが提案していくという仕組みがなければいけないなと思うのですよね。4年前にDEG(デジタル・エンターテイメント・グループ)ジャパンという業界団体を一つ立ち上げました。次の私の仕事というのは、映画を劇場で当てる組織と仕組みを作る事、そしてブルーレイだけではなくデジタル配信の方も大きな産業にしていくことです。これが、みんなで振興していくための一つのきっかけになっていったらいいなと思っています。(つづく)



プロフィール
塚越隆行(つかごし・たかゆき)

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1962年群馬県生まれ。早稲田大学・教育学部を卒業。84年、朝日広告社に入社。制作局をはじめ、マーケティング局、ラジオ・テレビ局、営業局を経て、91年6月、ディズニー・ホーム・ビデオ・ジャパン(現ウォルト・ディズニー・ジャパン㈱)にセールス・マネージャーとして入社。98年5月、セルスルー事業部・事業部長に就任。00年4月、DVD/ビデオの製造・販売部門であるブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント(現ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホーム・エンターテイメント)の日本代表に就任。
 ディズニー作品、スタジオジブリ作品などにおいて数々の大ヒットを世に送り出す。07年には『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』や『カーズ』の記録的な販売実績により、3年連続でDVDメーカーセールスの首位を獲得。ホーム・エンターテイメント業界のNo.1メーカーとしてのポジションを維持し続けている。
 10年3月、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ・ジャパンと、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホーム・エンターテイメント部門の統合により“ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン”発足。同部門のシニア・ヴァイス・プレジデント兼ゼネラル・マネージャーに就任。 高校時代はラグビー部、大学ではボクシング部に所属。趣味は、映画・演劇・読書などのエンターテイメント全般とスポーツ。



★高橋雅美マーケティング エグゼクティブ ディレクターのインタビューへつづく。


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