「紅の豚」が、そうだった。「もののけ姫」も、そうだった。ジブリはこれまで、興行がどれほど不安視されようが、結果をしっかりと出してきた。今回も、そうである。こんな芸当ができるのは、世界広しといえど、ジブリだけだろう。もちろん、日本国内における映画興行を指してのことではあるが。
「風立ちぬ」が、ロケットスタートである。7月20、21日の2日間では、全国動員74万7451人・興収9億6088万5850円を記録した。公開スクリーン数は、454である。宮崎駿監督の前作「崖の上のポニョ」(08年7月、最終興収155億円)は、オープニング2日間では10億円を超えていたので、それには届かなかったが、この成績は注釈なしに、すごいと言って差し支えない。
配給の東宝は、比較対象の作品を出してこなかった。これは、別に珍しいことではない。ジブリ側の意向を汲んでのことである。あまり、ちまちまと、興行のことをさらさない。興行という商業性の土俵では、静かにしている。結果、とてつもない成績にたどり着いている。これが、ジブリである。
さて、本作の特徴は、まず客層だと言えよう。先の「崖の上のポニョ」がそうだったように、ジブリ作品の観客は、子供と親というファミリー層が主流だ。だから、夏休みを当て込んだ作品が多い。驚くなかれ、1989年の「魔女の宅急便」以降、公開が延期になった「ハウルの動く城」(04年11月)を除いては、すべて7月という時期に公開されている。
これは、ファミリー層を主要な観客にしているためで、実際上も、その層の大量集客(大小はある)で、群を抜く成績を維持してきたのである。それが今回、これまでのそうした客層は減り、20、30代の男女から、50代、60代以降の年配者中心となった。ただ、この層になっても、9億円を超えるほどの威力を見せたのは、その層の広がり方が、通常のヒット映画の比ではなかったからだ。
ジブリのアニメで、ファミリー層がそれほど高い比率を占めない作品は、初期作品を除いて、なかったと言っていい。今回、内容面、宣伝面、4分の予告編など、新たなジブリ神話がいくつもできたが、その一つが、ジブリ常識を超えた客層だったと思う。ファミリー層ではない客層の半端ではない集客力は、映画界の常識をさえ、あっさりと覆した。
ジブリ神話を考える。これから、さらに増えていくのか。いや、もう止まるのか。女子高校生が、劇場で大泣きしているという情報も入ってきた。さらに今後、若い層に下がってくることも、予測される。とにかく、冒頭にからめて言えば、何が起こるか、これからも皆目見当がつかないのが、ジブリなのである。
(大高宏雄)