今回は、スタジオジブリ作品の「かぐや姫の物語」(監督・高畑勲)の公開が延期された件を、興行面から触れる。マスコミ各社に延期情報が入ったのは、2月4日の夜で、その情報解禁は、2月5日の午前6時以降だったようだ。その前に記事化したところもあったようだが、いずれにしろ、製作の遅延から、公開は今年の夏から秋に延期となったのである。「絵コンテの完成が遅れている」というのが、その理由とされる。
製作の遅延によるジブリ作品の公開延期は、「ハウルの動く城」(監督・宮崎駿)が有名だ。2004年の夏公開から11月(05年の正月作品)に変更された。だから、監督は違うとはいえ、今回の延期にそれほどの驚きはない。また、やったかという程度である。高畑監督の「ホーホケキョ となりの山田くん」では、 “制作は、順調に遅れています” というキャッチコピーで、延期をほのめかすような逆手の宣伝戦略に出たこともあった。これは、かなり現実味を帯びたコピーだったのではないか。
今回の延期では、スタジオジブリも大変だが、東宝も歯がゆいだろう。ただ、東宝には逆の思いもあるのではないか。今夏の「風立ちぬ」(監督・宮崎駿)と「かぐや姫の物語」が、別々の “劇場網” で同日公開されるとの昨年の発表だったが、これは配給サイドとしては、営業、宣伝の両面から見て、かなり過酷な “シフト” だったと思われるからだ。
同日公開の話題性はあるとして(事実、発表時には話題になった)、宣伝の実務面では、夏の “大作” 2本を同時並行的に扱うのには大変な労力が必要とされる。営業面では、激戦の夏興行のなか、相応の劇場数を確保できたとして、もし興行面で低い成績ともなれば、各シネコンが、並み居る他の大作を上映面で優先してくることは目に見えている。おそらく、その対処の早さは、他の時期とは比較にならないだろう。
では、秋に延期されたから、「かぐや姫の物語」は不利になるだろうか。そうとも言えないと思う。競合作品が少ない秋の時期に、クオリティ優先のアニメとしての側面を、時間をかけて存分に浸透させる方向性を目指すことができるからだ。観客側から見ても、公開時期が分かれるほうが、2作品が比較的見やすくなるとも言える。
何事も、無理をしないほうがいい。災い転じて、福となせ。製作会社にとっては、製作資金の早い回収が、とてつもなく大きな意味をもつことはわかる。だが、ジブリが、監督=作家主義を貫く以上、断じて質は落としてはいけない。
(大高宏雄)