邦画3社、揃い踏みである。都内1館公開の「私の奴隷になりなさい」を入れれば、映連加盟の邦画4社の作品が、11月2、3日の週末に一気に出揃ったことになる。これは、非常に珍しいと同時に、まさに現状の邦画興行を象徴したようなスタートになった。そのスタート成績を、以下ざっと見よう。
▽東宝=アスミック・エース配給「のぼうの城」=全国動員40万9352人・興収5億0490万1150円(11月2~4日、328スクリーン)
▽東映配給「北のカナリアたち」=16万4924人・1億8039万1800円(11月3、4日、330スクリーン)
▽松竹配給「黄金を抱いて翔べ」=7万5120人・1億0098万4200円(11月3、4日、191スクリーン)
お分かりのとおり、「のぼうの城」が群を抜き、大ヒットである。東宝は、1年間の数ある勝負作、話題作の1本という位置づけだが、松竹と東映は、それぞれ年間を通した勝負作だと言える。それでも、東宝に差を開けられてしまったことが、先の「現状の邦画興行を象徴した」との意に込めてある。
「のぼうの城」の興行で驚いたのは、10代から50代、60代あたりまで、実に客層が広かったことだ。ここに、3日間で5億円を超えた理由の一つがある。年配者中心の時代劇の興行の定形を打ち破ったわけで、それは明らかに中身の特異性による。昔ながらの時代劇の激しい殺陣というより、 “スペクタクル” 的とも言っていい多くの派手な描写が、若い観客の気持ちをつかんだのだろう。
埼玉県のシネコンが、全国の劇場別の興収上位館を独占したことも、興味深い現象だった。1位=ワーナー・マイカル羽生(665万6900円)、2位=熊谷シネティアラ21(625万8300円)、3位=TOHOシネマズ梅田(608万7800円)、4位=TOHOシネマズスカラ座(587万3700円)、5位=MOVIXさいたま(564万7600円)。いずれも3日間計。
大阪、東京のメイン館を凌いだことも驚きなら、埼玉県全体の興収シェアが何と、全国の12%(ふだんのほぼ2倍)に及んだことも特筆すべきだ。
映画の重要な舞台として、今の埼玉県が登場する。地元ではその宣伝活動が随分長く行われていたようで、その浸透が埼玉県の人々に大きな関心をもたらしたと言えようか。若者層の支持と映画の地元の高稼働。大型時代劇の興行としては、極めて珍しい現象が重なった。
「のぼうの城」は、邦画の製作、興行に活を入れたと思う。ただ、忘れてはならないのは、本作は東日本大震災の被災状況や被災者の心情を考慮して、公開が延期された作品であったことだ。そのことは、今やすでに忘れかかっているのではないか。
(大高宏雄)