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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.3】
“20億円の壁” が今、映画興行に存在する理由

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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.3】
“20億円の壁” が今、映画興行に存在する理由

2010年10月19日

 日経新聞の金曜夕刊に、不定期で日経エンタテインメント!発の「シネマ最前線」という記事が掲載される。いつも愛読させてもらっているが、10月15日付では、「例年になく盛り上がる秋興行」という内容の記事が出た。

 確かにこの秋は、昨年よりヒット作品が多いのは事実で、11月、12月の成績いかんでは、前々回に記したような年間興収の大幅増も見込まれるところまできた。これは、何度も言うが、明らかに3D映画の効果が出ている結果である。
 
 記事のなかで、一つ気になったことがあった。最終の興収で“20億円超えが見込まれる作品”として、「BECK」「君に届け」「十三人の刺客」「悪人」「大奥」の5本が並べられていたことだ。実は今のところ、この5本のなかで20億円を超えそうな作品は、「大奥」のみの1本である。

 公開当初は、確かにどの作品も20億円超えは視野に入っていたのだが、その後の展開から、その突破が難しい情勢になってきた。もちろん、絶対ということはないから、その数が2本になるか3本になるかはわからないが、今の段階ではそうした数字の推移が見込まれることだけは、この場で確認しておきたいと思う。
 
 この記事から私が思ったのは、最近映画界でよく言われている“20億円の壁”ということであった。公開直後は20億円が確実なスタートを切るのだが、1週、2週、3週と経つうちに、その数字のクリアが困難になっていく。そうした作品がかなり増えていて、そのことを指して“20億円の壁”と言うのである。

 その理由としては、いろいろなことが考えられる。一番大きいのが、やはり作品の中身の問題だろう。話題性などで当初は好調な数字をキープするが、口コミが弱くて失速していくパターンである。これはまあ、致し方ない。宣伝のほうが、がんばったとも言える。

 もう一つが、最近の興行事情の問題である。公開作品が多いため、相次ぐ新作のために上映の回数が制限され、それに伴い成績の落ちが顕著になっていく。強靱な興行力を順調に展開する作品なら、上映回数の確保は大丈夫なのだが、2週目にある程度の落ち込みを見せた作品などは、とたんに厳しい上映環境に置かれる。
 
 もちろん、どの作品も万全の公開形態で上映されることは不可能であるが、一つの教訓としては、主としてシネコンの担当者は、観客の動向をしかと見定め、できる限り作品の興行力をそがないような努力をしていくことが求められるだろう。

 言うのは易しいのだが、そのことを意識しているだけでも、何らかの違いが出てくるに違いない。配給サイドも、そのことに敏感であらねばならないと思う。

 日経の記事は、“20億円の壁”を思い起こさせてくれた。感謝であるが、そのことをある人に指摘すると、「いや”10億円の壁“のほうが多くあるよ」と言われた。確かに、それは言える。

(大高宏雄)



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