GPは2年連続仏映画、依田チェアマン退任発表
第25回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが28日、TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われた。昨年『最強のふたり』が受賞したコンペティション部門の東京サクラグランプリは、今回もフランス映画『もうひとりの息子』が受賞。同作品は最優秀監督賞と合わせて2冠を達成した。審査員特別賞と最優秀男優賞を獲得した韓国映画『未熟な犯罪者』の健闘も目立った。
また、5年間チェアマンを務めた依田巽氏が、今回で退任することを発表。後任には角川書店取締役相談役の椎名保氏が就任することがこの日初めて明かされた。
ある視点部門は土屋豊監督『GFP BUNNY』 今年で5年目を迎えた「トヨタアースグランプリ」は、毎日10万食を無料提供している寺院で撮影したベルギー映画『聖者からの食事』が受賞。審査員特別賞を、ゴミの山と汚染の映像を収録したイギリス映画『ゴミ地球の代償』が受賞した。『聖者~』の
フィリップ・ウィチュス監督(=右写真)は、「『食事をとる』ということがどういうことなのか、考えるきっかけになれば嬉しい」と話し、『ゴミ~』の
タビサ・トラウトンアソシエイト・プロデューサーは、「このような賞を頂けることは大変重要なこと」と受賞を喜んだ。また審査員長の
品田雄吉氏は総評で「『聖者~』は映画的に素晴らしい出来上がり。こういうものが一般的に公開され、広く見られればいいなと思う。『ゴミ~』は「ゴミ問題を真正面から取り上げた説得力のある作品」と総評した。
「日本映画・ある視点部門」は、
土屋豊監督の異色作『GFP BUNNY‐タリウム少女のプログラム‐』が作品賞を受賞。登壇した土屋監督(=右写真)は「賛否両論の映画だと言われていて、実際にそんな反応だったが、色々な意見を頂くことを嬉しく思う。この映画は自分で400万円を出して撮影し、公開のための宣伝費も200万円かかる。この部門は、そうやって自分のお金を費やしてでも世の中に情報を発信したい人の映画が続いていく。この映画が成功することで若い人の励みになれば」と熱弁。審査委員長の
村山匡一郎氏は「今回のこの部門は家族の崩壊、震災の被災地、信仰宗教を扱った暗いテーマが多かった。そういった題材は物語力、構成力、映像力でどこまで提示できるかが勝負だが、その点で物足りない作品が多かった。しかし『GFP~』は、実際にあった事件から着想を得て、しかも複数の視点を構造化することで大胆でエネルギッシュな創作意欲が感じられた」と論評した。
「アジアの風部門」は、見合い結婚による60歳の男と14歳の少女の新婚初夜を描くトルコ映画『沈黙の夜』が最優秀賞を受賞。
レイス・チェリッキ監督(=右写真)は「世界中の声と色彩を一堂に介させ、人々の哀しみ、辛さ、物語を語ることが芸術の仕事だと思う。我々を迎えてくださって映画祭に対して厚く御礼申し上げたい」と感謝の意を述べた。また、審査委員長の
中山治美氏は「男尊女卑が残る地域での幼な妻問題を扱いつつ、徐々に2人の背景が明かされていくサスペンス的要素と、密室劇での2人芝居のスリリングさに惹かれ、最後まで飽きさせなかった」と本作の感想を述べた。なお、審査員3名の評価が割れたため、スペシャル・メンションとして『ブワカウ』『兵士、その後』『老人ホームを飛びだして』が選ばれた。
グランプリは仏映画『もうひとりの息子』
「コンペティション部門・観客賞」は、事故に遭い脳に障害を追ったアーティストがリハビリを経て復活していく過程を捉えた
松江哲明監督(=右写真)の『フラッシュバック・メモリーズ 3D』が受賞。松江監督は「この映画は映画祭が始まるギリギリの3日前に完成し、映画祭の方にご心配かけた。先程、映画祭で2回目の上映があり、お客さんが凄く温かい感想を伝えてくれた。上映した時のお客さんが作ってくれた(温かい雰囲気の)場所が制作者にとって嬉しく、映画を公開するにあたって、こういう場をもっともっと広げていきたいと決意できた」と語った。
「コンペティション部門・最優秀芸術貢献賞」は、アイデンティティ、正義、美、意義、そして死についての問い掛けを探るインド映画『テセウスの船』が受賞。
パンカジ・クマール撮影監督の代わりに登壇した女優のアイーダ・エル・カーシフは、「彼は素晴らしい撮影監督。いつか一緒に仕事をしたいと思っていたので、それが叶い、このような賞を頂けて嬉しい」と語った。また、「コンペティション部門・最優秀女優賞」を受賞したのは、トルコ=ドイツの青春映画『天と地の間のどこか』の
ネスリハン・アタギュル。アタギュル(=右写真)は「素晴らしいことでとても興奮している。私の母親も喜んでくれると思う」と感想を述べた。
コンペティション部門で「審査員特別賞」と「最優秀男優賞」の2冠を達成したのは、失われた時間を取り戻そうとする母と息子の姿を描く韓国映画『未熟な犯罪者』。
カン・イグァン監督は「この映画を作るのは簡単ではなく、完成したのは奇跡だった。映画を作ることは、同じ考えの人に会うことだと思う。今回は映画祭を通じて、この作品を観客や審査員に見てもらい、皆さんが好きになってくれた。つまり、たくさんの人と友達になれたということ。新しいたくさんの友達と出会うきっかけになった東京国際映画祭に感謝したい」と喜びの言葉を述べ、男優賞を獲得した
ソ・ヨンジュ(=右写真)は「感謝という言葉しかない。映画祭に参加したことは大きな経験とプレッシャーがあり、そのような場で賞を頂けて嬉しい」と語った。
そして、「東京サクラグランプリ」を受賞したのは、昨年に引き続きフランス映画『もうひとりの息子』。出生時に赤子がすり替わっていた事実により、人生が狂い、それぞれの価値観や信念を見直すことになる二つの家族を描く本作。「最優秀監督賞」も受賞した
ロレーヌ・レヴィ監督(=右写真)は「大変光栄で、この喜びをチーム全体で共有したい。撮影中、自分は映画のことしか考えておらず、終わってしまうと何もしないで甘えてしまう。とても映画は疲れるもの。もっと周りを信用しなくてはと考えている。見事なキャストとプロデューサー、スタッフに感謝したい。ありがとう東京!」とコメント。
ヴィルジニー・ラコンブプロデューサーは「信じられない素晴らしい結果」と喜びを語り、出演の
ジュール・シトリュクは「この役をオファーしてくれた監督に感謝したい」と語った。
コンペティション部門の
ロジャー・コーマン監督(=右写真)は、「(応募された)たくさんの作品から非常に素晴らしい作品を選び出して頂いた。本当の意味において、映画の力を体験することができた。そして、違う文化、違う環境の中から、学びとることが多かった。どこの映画であろうと、やはり、真髄には共通のテーマがある。それは『人間性』。私たちは違うところから来てはいるが、皆、素晴らしい人間性を持っていると信じているし、希望がある」と総評した。
依田チェアマン退任、椎名氏が後任に また、5年間チェアマンを務めた
依田氏(=右写真)が今回で退任を発表。依田氏は「5年間を振り返ると、必ず毎年何か出来事があった。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災・福島原発事故、その間にも色々あった。特に申し上げたいのは、東京国際映画祭として、上映したい映画がその時に上映できなくなることもあったが、私としては、表現の自由を重んじるこの映画祭が、自分たちのプライドを持って、思う方向に向かって走ってきた5年だと思う。私についてきてくれた事務局は非常に自立しているので、そのことは達成感がある。支えてくださった皆さんに心から感謝申し上げたい。現在私はチェアマンの任期続行中だが、来年3月31日までとなっている。第26回東京国際映画祭は明日から準備が始まるわけで、ここで、私の後任を発表したい」とし、
椎名保氏のチェアマン就任を発表。客席から椎名氏が挨拶した後、「(あとは)よろしくお願いします。日本の映画業界に少しでも貢献できて良かったと思うし、日本の映画業界がますます発展していくよう、心から祈って、私も微力なからお手伝いさせて頂く。本当にありがとうございました!」と語った。 了
受賞者一同