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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.171】
「劇場版 Fate/stay」、とても重要な作

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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.171】
「劇場版 Fate/stay」、とても重要な作品

2017年10月26日

(C)TYPE-MOON・ufotable・FSNPC

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 大ヒットスタートだったが、トーンダウンした。「劇場版 Fate/stay night[Heaven's Feel] Ⅰ.presage flower」(長い)のことである。同作品は、先々週の10月14日から公開され、14、15日の2日間で全国動員24万7507人・興収4億1303万0620円を記録した。上映館数は、何と128館に過ぎない。すごい数字である。

 ただ、2週目の10月21、22日は、1週目土日の60%以上も興収を落とした。普通の興行ではありえないような落ち方である。コア層中心の枠を破り、広い層に広がったように見えただけに、やはり限界もあるのだろうか。スタートだけを見れば、同じアニプレックス配給のアニメーションとしては、「劇場版 ソードアート・オンラインーオーディナル・スケールー」(17年2月18日公開)の97%の興収だった(土日比較)。「劇場版 ソードアート」は、最終で25億円を超えている。「劇場版 Fate/stay」は拮抗するかと思ったが、2週目の落ち込み方を見て、「劇場版 ソードアート」には及ばないだろうと判断した。

 スタート時の成績が凄かったので、私はすぐに新宿バルト9にすっ飛んで行った。公開4日目、17日の午後6時30分の回である。8割方、席が埋まっていたのには驚いた。上映時間は約2時間。その間、ほとんど微動さえしないように感じられたほど、観客たちは映画にじっくりと見入っていた。エンディング・ロールが過ぎても、そのあとに必ず新たな映像が出ることを知っているようで、ほとんどの人が最後まで席を立つことはなかった。

 「劇場版 Fate/stay」のことは、ゲームやテレビアニメ含めて全く知らない。その私が見終って、このアニメの世界観を少しだけ、わかった気がした。これが、なかなか心地良かった。聖杯の戦いは、ちんぷんかんぷんだったが、その描写と同じ比重というより、一段と力が入っていたように思われたリアル場面に、なかなかに見応えがあったからだ。

 その中心点にいるのが、士郎と桜だ。このネーミングはまるで、昭和歌謡「昭和枯れすゝき」の “さくらと一郎” ではないか(古い)。「貧しさに負けた」(知らないか)とは言わないが、桜が言う「もし、わたしが悪い人になったら、許せませんか」の名セリフにして、キャッチフレーズのような言葉は、やはり本作の本質を表していると思う。2人の関係性というより、これは観客に向けた言葉にも感じるのはしごく当然だろう。

 さらに、桜が士郎に連呼する「先輩」なる言葉が、美少女キャラの定番を押さえていて、ちょっとゾクゾクさせられる。劇中、もっとも多く使われた言葉は、この「先輩」ではなかったか。桜の声は、声優の下屋則子が担当している。この声がまた、甘ったるく、ときどきセリフが途切れつつ、つんのめる感じがあって、何とも微笑ましい。さきの極めつけのセリフ、及び美少女キャラの声質ともに、アニメファンの気持ちをつかんで離さない仕掛けが満載と言っていいだろう。

 さらに、細かい描写のいくつかの部分で、隠し味的な性的場面が描かれ、それが本作の大きな魅力になっている。それは、士郎の前に現れるときの桜の胸の微妙な盛り上がりや、後ろ向きの桜の尻の部分のなだらかな膨らみをとらえたシーンなどだ。これは、胸や尻をいたずらに強調したこれみよがしの描写より、何倍もイマジネーションを刺激する。リアル場面に、楔のように打ち込まれた繊細な描写であると言える。

 興行の猛ダッシュとトーンダウンは、本作が放つ先のようなアニメ・テイストと、関係があるのかもしれない。期待値と定番的に見えなくもない展開である。本作の世界観に初めて触れた私のような者からすると、それを刺激とともに認識できるが、そのように感じられる層の幅は、少々限定的である気もする。

 「劇場版 Fate/stay」は、マスコミに大きく扱われることはないだろう。「劇場版 ソードアート」だって、そうだった。ただ、両作品ともに、今のアニメ事情を語る上で、とても重要な作品と思う。そのことだけでも、伝えたいと思い、この文章を書いたしだいである。

(大高宏雄・特別編集委員)

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