バリアフリー上映 本格始動はすぐそこ
2016年05月20日
従来は課題多数 「バリアフリー」とは、高齢者や障がい者が、生活をする上で障壁となるものを取り除くことを意味する。
映画におけるバリアフリー上映とは主に、視覚障がい者に向けた「音声ガイダンス上映」と、聴覚障がい者に向けた「(邦画の)日本語字幕付き上映」を指している。
音声ガイダンスは、劇中のキャラクターのセリフとセリフの合間に、そのシーンの状況や光景、キャラクターの表情や動きなどを音声解説することで、映像を想像できる工夫がなされている。日本語字幕付き上映は、セリフはもちろん、話者の名前も表示する。さらに、どんな音やBGMが流れているかを文字にすることで、音声をイメージできるようになっている。
バリアフリー上映そのものは、現在でも限定的に行われている。たとえば、2015年に音声ガイダンスの上映が行われた映画は『杉原千畝 スギハラチウネ』、『愛を積むひと』、『くちびるに歌を』など。その前の2014年は、6本の音声ガイド付き作品が上映された。本数は多くないが、年に数本は上映されている状況だ。日本語字幕付き上映はさらに普及しており、映連の4社(松竹、東宝、東映、KADOKAWA)の配給作品は、約70%に日本語字幕が用意されている。特に東宝は日本語字幕付与率100%と、業界でも先行してバリアフリー上映に積極的な姿勢を見せている。
ただ、音声ガイダンス、日本語字幕ともに、現状では本格展開させるためには大きな課題があった。
音声ガイダンスの場合、観客は小型ラジオとイヤホンを使って解説を聴いている。ラジオにFM電波を発信する形のため、上映当日にオペレーターが機材を劇場に持ち込み、映画本編の音と、解説音声が同期していることをチェックする必要がある。日にちや時間が指定されるため、利用者にとっては不便な上、スタッフの人件費がかかってしまう。
日本語字幕の場合は、邦画に字幕が付いていることで敬遠する人も少なからずおり、上映回数を確保しづらい事情がある。ある映画館では、子供向けアニメーション映画の日本語字幕付き上映回を夜に設け、利用希望者が抗議するという事例もあった。
いずれも、映画業界側にとっては負担が大きく、利用する側にとっては気軽に足を運べないのが実情だ。
新技術で大きく進歩 そんな現状の課題を、ある2つの技術が劇的に改善し、数年前から一気にバリアフリー上映の本格展開に目途がついた。
エヴィクサー株式会社が開発した「音声電子透かし」と「フィンガープリント」である。
映画のバリアフリー化を目指すNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)が、これらの技術に着目し、バリアフリー上映に利用することを提案したことで、実現に向けて大きく進展してきた。