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「シネ・マレーシア2013☆」レポート

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「シネ・マレーシア2013☆」レポート

2013年06月21日
マレーシア映画の現在(いま)に触れる!

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 「シネ・マレーシア2013☆マレーシア映画の現在」が5月24日(金)から31日まで、東京のオーディトリウム渋谷で開催された。(写真右からピート、デイン監督、メリーナ、シャリファ、桧山)
 同映画祭は “自分が見たい作品に出会える” 映画祭。多彩な表情を持つマレーシア映画の現在(いま)を紹介するため、国際的に評価の高いアート系作品、コメディ、アクション、青春、ロマンス、ドラマなど、現地で人気の商業作品から上映作品が選ばれた。特集上映「マレーシア人の見た日本、日本人の見たマレーシア」では、日本・マレーシアの映画人の交流に注目し、両国監督の近作・プレミア作品を上映。また、主要作品の監督・キャストも来日して上映後のQ&Aセッションに参加。「映画を通してマレーシアを知る」ためのミニ・シンポジウムやトークショー、来日ミュージカルによるライヴも行われた。




画期的な、とても意味のある映画祭

 初日の24日、18時45分からの『サイレント・ラブ』、『Songlap』の上映前にオープニング・セレモニーが行われ、デイン・サイード監督、女優のシャリファ・アマニ、俳優・監督・ミュージシャンのピート・テオ、音楽家のメリーナ・ウィリアム、そして『クアラルンプールの夜明け』主演の桧山あきひろが登壇。

 デイン監督は「みんなとこの壇上に上がれて嬉しい」と喜びを語り、ピートは「2003年に、シネ・マレーシア代表の竹内(志織)さんの招待で来日して以来、何度も日本に来る機会をもらって、友達もたくさんできた。いろんな映画を楽しんでもらいたい」、桧山は「画期的なイベントに参加させてもらって大変誇りに思う」、シャリファは「自分が監督した作品(『サンカル』)も上映されるので、私にとってとても意味のある映画祭」、そしてメリーナは「日本の皆さんと仕事が出来ることが嬉しい」と、それぞれ語った。

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 25日は土曜日ということもあり、初日よりもさらに多くの観客が詰めかけ、26日(日)には16時からの『黒夜行路』上映後にトークイベント、18時45分の回の『Bunohan』上映後にはマレー舞踊が披露され、続いてデイン監督、日本マレーシア学会の戸加里康子氏、研究者の盛田茂氏が登壇しシンポジウムも行われた。
 『Bunohan』(2011年)では、タイ国境に近い架空の街ブノハンを舞台に、3人の兄弟が繰り広げる、限りなく美しくも、残酷な悲劇が描かれる。伝統文化ワヤン・クリッ(影絵)の世界観と、マレーシアの土着の記憶を掘り起こすような風景が重層的に紡がれ、米国アカデミー賞外国語映画賞マレーシア代表に選出された注目作。
 シンポジウムでデイン監督は、作品について非常に興味深い話を語ってくれた。




近代と伝統の二項対立、伝統と自然の喪失

デイン・サイード監督語る
 メインストーリーは3人の兄弟がいて、その争いだが、その中にいろいろなことを描いた。一つは近代と伝統の二項対立というか、それと父親の価値観と子供の価値観、伝統と自然の喪失を描いている。

 それから女性が一人しか出てこなかったことに気付かれたでしょうか。声では出て来るが、見える姿で出てくるのは鰐に変わってしまった母親一人で、彼女を女性の代表として描いた。

audience.jpg もう一つはアミニズム(生物・無機物を問わないすべてのものの中に霊魂、 もしくは霊が宿っているという考え方、精霊崇拝)、いろんな物への信仰が否定されている現状も描いている。いろんなものに霊、魂が宿るという形でこの世界を描きたかったので、鳥がたくさん出てきたシーンがあったと思うが、鳥と語り合っていたり、女性が鰐に変わってしまったり、あとは土地をフィーチャー(特徴づけること)して描いたが、元々、土地に魂が宿るという考えがある。

 日本の皆さんには理解できないこともたくさんあったと思うが、それはしょうがないことで、ストーリーがわかって頂ければ問題ないと思う。マレーシアでも一地方の話なので分からない人もたくさんいた。

 「治療儀礼」の話が出てきたと思うが、女性が踊ったり、音楽を鳴らしながらだんだんトランス(恍惚状態)に入っていき、それで人を治す儀礼がある。字幕では精神的な気の病と訳した。昔、そうした儀礼は6日6晩行われたが、現在は3日3晩で行われている。映画の中には映っていなかったと思うが、今回の撮影のために治療儀礼を行ったもらったが、嘘の為にはできないので、そのために病気の人を探し出して儀礼をしてもらった。
 6時間をかけて治療儀礼を撮影し、先ほど女性が出て来ないと言ったが、最後の最後で出てきて、その儀礼で土地を治して終わりにしようとした。だが、最終的には観てもらったように、3人の男性が画面から消えていく終わり方にした。そちらの方が、癒してしまわない方がいいのではないかという結論に至った。

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           (写真左から戸加里氏、デイン監督、盛田氏)

 この映画は、タイとマレーシアの国境にある町を舞台にしているが、境界というものが非常に面白く、そのボーダーで撮った。実際にそこに国境なんていうものがあるわけではなく、人間が考えたもの、頭の中で創り出したものだが、世界があって、ここではマレー系がいて、イスラムがあって、民間信仰があってという風に描いている。
 それから沼地が出て来ていたと思うが、それも意図的に描いた。沼地は陸地でもなく、水でもなく、中間地点ということで選んだ。
 また、殺し屋が出てくるが、これは実話からとっていて、聞いたことがある話だが、タイとマレーシアの国境のところには、殺し屋がたくさんいて、ビール一杯で殺しをしてくれる(笑)。
 キックボクシングも、クランタンには非常にたくさんクラブがあって、男の子なら必ずやる通過儀礼的なものだということと、世界中どこでも同じだが、貧困から逃れるためにやるもの。

 そして影絵芝居(ワヤン・クリッ)が出てくるが、クランタン州はマレー半島の東海岸の一番北にある州だが、そこは90年代から影絵芝居が政府によって州内では禁止されている。先ほど、女性の治療儀礼の話をしたが、それも禁止されている。それは非常によくないことで、私たちが引き継いできた遺産(伝統)なので、映画の中に入れたかった。マレーシアは現在、いろんなことが否定されている。

 もう一つこの作品で見せたかったのは、部族のコミュニティに、他民族の人たちが入っている現状を見せたかった。クランタン州の華人(チャイニーズ)たちはもの凄く上手にマレー語、クランタン方言を話すが、マレーシアの他の地域では、マレー語をしゃべっても華人だとすぐわかる。クランタン州の華人の姿を描くことで、現状をを見せたかった。



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2年に一度の映画祭、合間の年に特集上映を行う

lobby.jpg 31日(金)、同映画祭は最終上映回『Bunohan』をほぼ満席にして有終の美を飾った。有料観客動員数は8日間で1400人を超えた。
 同作上映後、同作に楽曲を提供しているカムルル・フシン(マレーシア若手NO.1の伝統音楽家)が登場。黒のジャケット姿で現れ、舞台上でマレー民族衣装に着替えるパフォーマンスから入り、木管楽器スルナイ、胡弓に似た弦楽器ルバブを演奏しながら見事な歌を披露。客席とのコミュニケーションやコール&レスポンスなどを交えた素晴らしい演奏の後には、暖かい拍手が鳴り響いた。

竹内代表.jpg クロージング・セレモニーには、シネ・マレーシアの竹内志織代表(写真左)が登場し、閉会の辞、後援・協賛・協力の各社・団体へ感謝の言葉を述べた後、「何よりも観客の皆様に来ていただいたからこそ映画祭が成立した、本当に感謝している」と述べた。また、今後はシネ・マレーシアとして2年に一度のマレーシア映画祭、合間の年には特集上映を行うと発表し、2014年は8月31日(マレーシア独立記念日)頃に特集上映を行う予定であると明かした。




 なお、作品別集客数(全28作品/15上映プログラム)上位は以下の通り。

第1位『Bunohan』(デイン・サイード監督/ジャパンプレミア)kamurul2.jpg
第2位『クアラルンプールの夜明け』(細井尊人監督/ワールドプレミア)
第3位『イスタンブールに来ちゃったの』(バーナード・チョーリー監督/東京プレミア)
第4位『理髪店の娘』(シャーロット・リム監督/ジャパンプレミア)
第5位『黒夜行路』(ジェームス・リー監督/ジャパンプレミア)
第6位『The Collector』(ジェームス・リー監督/ジャパンプレミア)



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