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MPA主催セミナー「映画産業とTV放送産業の経済貢献」

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MPA主催セミナー「映画産業とTV放送産業の経済貢献」

2012年10月30日

 モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)は、「映画産業とTV放送産業の経済貢献」と題したセミナー(東京国際映画祭共催企画)を22日、六本木アカデミーヒルズで開催。以下の“映画・TV放送産業の経済効果”の推計結果(三菱総研調べ)を発表し、それをもとに各パネリストが業界の現状と今後について議論した。

11兆6642億円の経済効果

 推計結果について、日本の映画産業及びテレビ放送産業の2011年における生産額は、直接効果で5兆4364億円、間接効果を含めた合計は11兆6642億円と算出。また、雇用者数は直接効果で8万8569人、間接効果を含めた合計は26万4707人とした。(今回の調査は、各種統計や関連文献を調査するとともに、主要業界団体へのインタビュー調査を通じて実施した)



 第1部パネルディスカッションでは、高井英幸(東宝相談役/ユニジャパン理事長)、岡崎市朗(パラマウント ピクチャーズ ジャパン日本代表)、佐々木伸一(佐々木興業社長/全国興行生活衛生同業組合連合会会長代理)、亀山千広(フジテレビ常務)の4氏が登壇。MCは遠山友寛弁護士が務めた。

第1部パネルディスカッションの様子.jpg



「21世紀の映画を追求していくべき」(高井氏)

 議論は、はじめに「映画人口」の推移に及び、高井氏は「映画館の動員数は57年から60年にかけて10億人を超え、よくその当時と現在が比較されるが、娯楽が映画ぐらいしかなかった時代と比較するのはそろそろ卒業してほしい。DVDやテレビなどでの鑑賞も含めた『映画鑑賞人口』の総数は、10年に8億人、11年に7億8000万人とされており、これは50年代と同じ規模。それに、これだけ映画を見るメディアが増えているにも関わらず、ここ40年くらいは映画館の動員数に大きな変化はない。これは、映画館が相変わらず魅力に溢れているからだと思っている」とし、佐々木氏は「(映像を見る)家庭環境は素晴らしくなっているが、映画館とは投資額が違う。(映像・音響など)情報量の多い映画館は家庭では体験できないものがある」と、映画館の重要性を強調。
 岡崎氏も「映画館で見た記憶は今でもよく覚えている。『午前十時の映画祭』という企画でも思ったが、やはり映画を映画館で見るのはビデオとは違う」と語った。一方亀山氏は、「興行収入の2000億円というのは、他にどんな産業と同じ規模なのかというと、紅ショウガの年間売上と同等だとか。しかしうちに帰って冷蔵庫を開けても紅ショウガはなかった。各家庭に必ずあるものではないがそれだけの売上がある。現状、映画も必ず見るものではないが、それを変えていきたい」とユニークな例を挙げて独自の考えを示した。

 現在の映画界の課題としては、高井氏は「日本では映画は嗜好品。毎日家族で連れ添って行くものではなく、よく映画館に足を運ぶ特定の人をいかに大事にできるか。あと、新しく映画を見る人をどれだけ大切にできるか。日本生産性本部の調べによれば、今、日本で映画を見る人は4000万人いて、この人たちが年平均4回映画を見ている。我々映画業界では、この人たちにもう1回増やしてもらい、年間動員数2億人目指している」とコメント。洋画動員の落ち込みについては岡崎氏が「ハリウッド映画は利益が見込めるシリーズ、リメイク作品が多いのが人気低迷の理由の1つでは。さらに日本では3D、2D、字幕や吹替えなど何バージョンも公開することで、消費者が自分の好きなバージョンを好きな時間・劇場で見られない弊害が起きている」と指摘した。

 今後、映画の動員増に向けてどの層をターゲットにすべきかという議題では、岡崎氏は「若い人の洋画離れが深刻化しており、若い人とハリウッドの共通点を見い出さなければいけない。スタジオから『日本人にインターナショナルなスターはいないか?』と聞かれることがあるなど、幸い今スタジオは世界に目を向けている。今後も日本のスタッフや俳優が積極的に海外に進出し、世界との距離を縮めてほしい」と要望を出し、高井氏は「21世紀も12年経った。そろそろ21世紀の映画は何か?を追及していくべき。デジタル時代に入り、未知の魅力を追及できる機会に遭遇している。平成生まれのケータイ世代が社会人になり、映画界やTV界にも入ってきている。そういうデジタルにアンテナを張った人たちに、新しいエンターテイメントの可能性を探ってもらいたい」と話した。
 佐々木氏は「短期的にはシニア層、団塊の世代にフォーカスしてしかるべき。しかし、長期的には若い世代も重要。シネコンは郊外のショッピングセンターに多いが、10代は親と一緒に買い物に行きたがらない。そこで映画に触れる機会を失っているのでは」とし、亀山氏は「これからは、M1層全て、F1層全て、といったように、あるセグメントを総取りできるような番組、映画を作っていくべき。『テルマエ・ロマエ』は結果的に全世代に支持されたが、元々は若い世代を意識していた」などと語った。



 第2部パネルディスカッションでは、ドン・サーバント(アイマックス・コーポレーション リージョナル・ディレクター)、ジョセフ・ペイシュート(リアルD ワールドワイド シネマ担当 プレジデント)、ウィリアム・アイアトン(ワーナー エンターテイメント ジャパン社長)、椎名保(角川書店 取締役相役)の4氏が登壇。

第2部パネルディスカッションの様子.jpg



「常に映画に関連する話題が出る環境を」(椎名氏)


 議題はまず「3D映画」から始まり、ペイシュート氏は「3Dは定着するか衰退するかという議論があるが、次世代の映画体験の基礎を考える上では、常にイノベーションを意識しなければならない。来年には36本の3D映画が企画されており、それらをきちんと見せることが我々の責務」とコメント。アイアトン氏は「『トランスフォーマー:ダークサイド・ムーン』や『パイレーツ・オブ・カリビン/生命の泉』のように、3Dの売上シェアが80%を超えるものもあれば、そうでない作品もある。3Dにする価値がある作品かどうかによると思う」とし、椎名氏は「当社(角川映画)では今年『貞子3D』が興収14億円のヒットとなったが、来年、日本映画で3D化が予定されているのは『貞子』続編だけだと記憶している。日本は少ないバジェットで製作しているのでなかなか3D映画は難しく、『ALWAYS 三丁目の夕日‘64』のように3Dで見る人が少なかった例もあるが、(日本市場に適した)3D表現に取り組んでみる必要があるのでは」と持論を展開した。またサーバント氏は「IMAXは3Dに非常に力を入れている。ただ、2Dでも3Dでも我々はお客さんにスーパープレミアムな体験をさせたいと思っており、2Dの『ダークナイト ライジング』でも、3Dの『スター・トレック2』でもIMAX撮影を実施している」と述べた。

 続いて、携帯端末などでコンテンツを楽しめる現状について、ペイシュート氏は「コンテンツの価値を最も高めるのは映画館。そして、価値を高めた作品を様々なデバイスで見ることができるのは良いことでは」と話した。一方椎名氏は「これからはiPadなどのモバイルからヒットが生まれていく時代。そうやって日常で慣れ親しんだキャラクターやコンテンツを映画化することで映画館に足を運ぶ形ができると思う」と、携帯端末での発信を土台とした映画館への集客の可能性を示唆した。

 最後に、日本の映画をもっと活性化するための施策について、サーバント氏は「コンテンツだけでなく、食べ物、座席、トイレといった良い環境作りが重要」とし、ペイシュート氏も「劇場には、日常の生活と異なる雰囲気作りが大切。食事もそうだし、多様な番組編成、プレミアムスクリーンも重要。期待を超える体験をすれば、客は劇場に戻ってくる」と劇場環境の充実化を重点に置いた。椎名氏は「作品ありきはもちろんだが、色々なメディアがある中で、作品、俳優や監督にしろ、常に日常の話題の中で映画に関連することが入ってくる環境作りが必要」と考えを述べ、アイアトン氏は「映画館の数は今が適正とも言われているが、現状映画館は都市部に集中しており、ローカル部に行くとまだ足りていないと感じている。もっと映画館を作ってほしい」と希望を述べた。

 なお、同セミナーではMPAA会長のクリストファー・J・ドッド氏の基調講演をはじめ、MPAアジア太平洋地域プレジデントのマイケル・C・エリス氏、東京国際映画祭チェアマンの依田巽氏、衆議院議員の甘利明氏、駐日米国大使のジョン・V・ルース氏、日本国際映画祭著作権協会の味村隆司氏がそれぞれ挨拶した。



MPA報告「映画産業とTV放送産業の経済効果」調査結果の詳細は、「文化通信速報(映画版)10月25日付」に掲載。



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