この夏ポニーキャニオンは、チャン・グンソク主演、ユン・ソクホ監督(『冬のソナタ』)による話題の韓国ドラマ『ラブレイン』をDVD&ブルーレイ(以下、BD)リリースする。5月に開催した韓流ドラマコンベンションで「勝負作」と位置づけた同作に業界の期待も高まるが、同社はこの他にも映画、アニメ、ドラマ、音楽の各ジャンルで強力タイトルの発売を控えている。各作品について、桐畑敏春代表取締役社長に語ってもらうとともに、2月に行った組織改編と、先日(6月18日)の役員人事等も踏まえて、現在の組織概要と今後の戦略を聞いた。
なお、このインタビューは3回に渡って掲載。第三回(最終回)の今回は「JVA会長の立場からの視点」でビデオ業界全体について聞く――。
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JVA会長の立場からの視点
――桐畑社長は、一般社団法人日本映像ソフト協会(JVA)の会長をはじめ、不正商品対策協議会(ACA)の代表幹事や、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の代表理事を務められていますが、それらを務めるに至った経緯は何でしょうか。
桐畑 実は全て連携しているのです。歴史をご説明しますと、85年頃、警察庁が偽ブランド品などの排除・撲滅するための活動を行うACAを設立する際、「JVAの中で、ACAの業務も行なってほしい」という事になりました。
その頃の日本のビデオ市場は海賊版天国で、アメリカのMPAが政府に取り締まるように圧力をかけていたのですが、そこで警察とJVAが組み、86年11月に福岡で国内最大のビデオレンタル店の摘発を実施しました。それ以来、ビデオレンタル店における海賊版は急速に減りました。こういった実績と経緯があり、JVAに就任すると、合わせてACAの代表幹事も務めることが通例となっています。
そしてCODAですが、同機構はオールジャパンコンテンツの海外流通を促進する団体として経済産業省と文化庁が02年に設立しました。ところが、海外に日本コンテンツを販売しようとしても、特にアジアでは海賊版が氾濫していて、正規ビジネスが成り立たない状況にありました。なので、まずは海賊版対策を行ってから、本来の目的を遂行しようということになり、海賊版対策に実績のあるJVAと関係を密にするようになったことから、JVA会長、ACA代表幹事を兼務する傍ら、CODAの代表理事も務めることになりました。
――CODAは、ゆくゆくは日本コンテンツの海外発信の窓口的な役割を担うのですね。
桐畑 今徐々に、橋渡しを行っている最中です。もぐら叩きしながらですね。それにはまず法律を作って具体的に運用してもらわないと駄目なので、相手先はほとんどが相手国の政府関係ですね。
一般社団法人日本映像ソフト協会
不正商品対策協議会
一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構
競争は「産業対産業」
――JVAの会長としての立場で、ビデオ業界に対して思うことはありますか。
桐畑 まず思うことは、BDの立ち上がりが想定より時間がかかっているので、もっと早く浸透させる必要があるということです。特にレンタルですね。あと、セル・レンタルとも安売り競争になっているので、値引きに頼らず、作品の説明や陳列の工夫などの正統な競争にするべきだと思っています。値引き競争が激しくなり、お店が弱体化してマーケットがシュリンクしていくことが一番の痛手ですから。お互いWINWINな関係を目指すべきでしょう。
――BDのレンタルがなかなか浸透しない理由は何でしょうか?
桐畑 お客さんの心理としては、レンタルに関してはDVDで満足されているのではないでしょうか。セルを購入する場合はBDで、と棲み分けられているような気がします。一方お店側としては、DVDとBDのダブル投資になってしまうので、まずはDVDを優先する場合が多いのでしょう。メーカーとしても、現在は2本体制なので、コスト的にも早く1本化できたらいいのですが…。VHSからDVDに移行する時も、レンタルはセルに比べて時間がかかりました。両方ともリリースしなければいけないのは、あの時と全く同じです(苦笑)。
VHSとDVDは全くフォーマットが違ったので良かったのですが、DVDとBDはあの時ほど見た目に差はないですから、ユーザーも「急がなくていいや」となっているのだと思います。 一方、セルはかなり移行が進んできています。ポニーキャニオンの場合、アニメに関してはBDとDVDの売上本数の比率が9:1と、ほとんどがBDです。洋画も5:5になっていますし、国内ドラマも4:6と、だいぶBDの数字が伸びてきました。タイトルによってこの比率が変わるのでなかなか難しいのですが、大ざっぱに言うと、マニアックな作品ほどBDの比率が上がる傾向にあるようです。
――6月11日に発表したJVAの12年度事業計画の中で、映像配信との協調に力を入れるとありましたが、やはり今後重要な事案ですか。
桐畑 私は、パッケージが配信に食われてなくなるとは思っていません。今後ユーザーは併用していくでしょうし、日本人には特有のコレクション志向があるので、パッケージが廃れることはないでしょう。それよりも、競争は「産業対産業」だと思っているのです。例えば、映画館でもDVDでも、映画を観なくなればだんだん観なくなります。逆に、配信であろうがDVDであろうが、接触率が高まれば業界は大きくなっていくと思っています。むしろライバルは旅行やエンターテイメント以外の業界でしょう。お客さんが映画や音楽やTVなどのエンターテイメントから遠ざかる方が、圧倒的にリスクが大きいと考えています。 (了)
桐畑 敏春 (きりはた としはる)
【生年月日】昭和21年(1946年)5月5日
【出身地】滋賀県
【学 歴】1969年3月立命館大学経済学部卒業
【職 歴】
1970年3月 (株)ポニーキャニオン入社
1996年10月 同 取締役 第2営業部長
2001年6月 同 常務取締役 経営情報本部長
2004年4月 同 常務取締役 経営管理本部長 兼 営業本部長、関連会社担当
2005年6月 同 代表取締役社長