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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.69】
「アーティスト」、またしてもギャガである

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【大高宏雄の興行戦線異状なし Vol.69】
「アーティスト」、またしてもギャガである

2012年02月28日
 先週、映画興行に大きな変化はなかった。シリーズ最終章の前編である「トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part1」は、2月25、26日の2日間で全国動員6万4150人・興収8450万3000円を記録。206スクリーンだった。やはり、このシリーズのこれまでの成績からして、意外性のないスタートであった。

 今週に入り注目を集めたのは、もちろんアカデミー賞の結果である。毎年、この時期になると、有力候補をかかえる各洋画配給会社は、次から次に発表されていく各賞の受賞結果に一喜一憂となる。今年は、その中心会社がパラマウントとギャガであった。

 かつて、80年代から90年代あたりのことを思い出すと、苦笑してしまう。米国での発表が、同時に日本のテレビ映像で見られる時代ではない。有力候補作品が集まっている配給会社に発表時刻になると赴き、宣伝担当者からその動向を聞いて、結果を知ることになっていたのである。配給会社が用意したリストから、受賞の俳優、作品などをピックアップしていく。ほぼ1日がかりの“仕事”であったが、この結果を知っていくのがまた、実に楽しかった。

 さて今回、ギャガのスタッフは満面の笑みだろう。作品賞受賞の「アーティスト」は、受賞前では80館前後の館数だったものが、100館を超えて120館ぐらいまで館数が増える見込みだという。これは、「スラムドッグ$ミリオネア」の“ブッキング”を意識したものである。「スラムドッグ~」の興収が13億円。モノクロ、サイレントの「アーティスト」はどこまで数字を伸ばすか。

 アカデミー賞作品賞受賞作を配給する会社のこの10年は、国内の配給事情を振り返れば、米メジャー系から国内資本の会社に移行してく時代でもあった。これは米国の映画事情が大きく影響していよう。クオリティ面を見れば、もちろんすべてではないが、米国における製作面の主体が、スタジオ主導から独立系へと移行してきたことを表す。

 国内を見れば、その国内資本の会社の方向性が、近年で激変した。組織変更、邦画へのシフト移行、メジャースタジオ作品の偏重といった方向が主流となってきたのである。こうした動きにより、いわゆる“アート系“作品の買い付け、配給の規模が小さくなっていった。

 「アーティスト」を含めると、ギャガはこの10年で、作品賞を受賞した作品を実に4本配給することになる。先に述べたことから、作品賞受賞作がこの会社に集まってくる理由が明らかであろう。一種変わらぬ買い付け、配給姿勢により、己が行く道をひたすら歩んできたことが、今になって花開いているのである。

 ライバル会社の方向転換などももちろんあるが、今のギャガにはこの方向性を貫いてもらいたい。“インディペンデント系“洋画配給会社の意地を、さらに見せてもらいたいと、切に願うのである。

(大高宏雄)

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