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「ndjc2011」35ミリ撮影に挑む若手映画作家5名が決定

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「ndjc2011」35ミリ撮影に挑む若手映画作家5名が決定

2011年11月21日

ndjc2011 全員 (3).JPG 映像産業振興機構(VIPO)が企画・実施する文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」。今年夏に始まった2011年度の取り組みもいよいよ大詰めを迎え、最終課程となる製作実地研修に参加する5名が決まった。ワークショップなどを通じて選ばれた5名は、多数の若手映画作家の代表として、35ミリフィルムで短編映画制作に挑戦する。

 製作実地研修に参加するのは、七字幸久さん、谷本佳織さん、中江和仁さん、藤澤浩和さん、やましたつぼみさんの5名。助監督経験が豊富な七字さんをはじめ、谷本さん、藤澤さんも普段は商業映画の現場スタッフとして働いている。中江さん、やましたさんは、CMやテレビの現役ディレクターとして活躍する一方で自主映画作家としての顔を持つ。5人全員が、将来的に商業映画監督を志望。「ndjc」は業界からも注目されるイベントだけに、一気に夢に近づくチャンスを得た。

 製作資金はすべてプロジェクトから捻出され、商業映画で多数実績のあるプロダクション各社が制作を請け負うなど恵まれた環境で、自分の撮りたい題材に向き合える。一方でプレッシャーもかかる中、気鋭の若手作家たちがどんな作品に仕上げるかに期待がかかる。脚本指導が終わり、これから順次クランクイン。全作品が来年1月中に完成し、2月以降に行われる上映会でお披露目される。

 「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」は、国をあげて未来の映画作家を発掘・育成する取り組みで、2006年に始まり今年度が6年目。全国の映画関係団体から推薦された若手映画作家が集まってワークショップなどで腕を磨き、選抜された5人が35ミリで30分程度の短編を撮ることができる。今年は28団体から計68人の応募があり、夏に行われたワークショップには書類・映像選考を通過した15人が参加した。


▼選抜された5人のプロフィールとコメントは以下のとおり

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七字幸久
(しちじ・ゆきひさ) 

推薦団体=協同組合日本映画製作者協会
制作プロダクション=映広


 1966年生まれ。横浜映画放送専門学校(現日本映画大学)卒業後、フリーの助監督として多くの撮影現場に参加。主に青山真治監督、松岡錠司監督、磯村一路監督、周防正行監督らに師事。オリジナルビデオ映画で監督デビュー後、「ダムド・ファイル」(メーテレ)、「ココだけの話」(テレビ朝日)などのテレビドラマ、オムニバス映画「歌謡曲だよ、人生は」では第2話「これが青春だ」を監督している。その他「ぐるりのこと。」(橋口亮輔監督)、「TOKYO!」(ミシェル・ゴンドリー監督)などのメイキング監督も手がけている。

 もう一度映画とは何か?を考えながら  「やっぱりそれなりに長いこと映画界で助監督をやっていたので35ミリフィルムには特別な思いがあります。映画は35ミリフィルムで撮影され、35ミリフィルムで上映されるのが当たり前だったからです。今や邦画界の大半がデジタルカメラによって撮影されるようです。もちろんデジタルの進化には眼を見張るものがありますし、これからデジタルが主流になることに異論はありません。デジタルはデジタルならの良さがあることも承知です。でもまだそれは過渡期、簡単にフィルム文化を終わらせるのはいかがなものかと思います。人間は究極のアナログだと思います。アナログを撮影するのはアナログであるフィルムのほうが相性が良い様に思うのは古い映画人の思い込みだけとは思えないのです。ndjcに選ばれて、もう一度映画とは何か? を考えながら映画を作っていこうと思っています」


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谷本佳織
(たにもと・かおり)
 
推薦団体=一般社団法人日本映画製作者連盟  
制作プロダクション=東映京都撮影所

 1979年生まれ。2000年に渡米しLos Angeles City Collegeで2年間映画制作を学ぶ。帰国後は大阪でのOL生活を経て、2006年から東映芸術職研修生の助監督として東映に所属。東映京都撮影所で「大奥」、東映東京撮影所で「はやぶさ 遥かなる帰還」をはじめ映画やTVドラマ、教育映画など数々の現場に携わる。2009年、アメリカの特撮テレビドラマ「仮面ライダードラゴンナイト」の日本語吹替版演出として演出家デビュー。

 幸せと大きなプレッシャー感じて 「35ミリフィルムで短編を制作する機会に恵まれ、幸せを感じる一方で、非常に大きなプレッシャーも感じております。この機会を最大限に生かせるよう、イメージを明確に持ち、スタッフ・キャストの皆さまに自分の撮りたいものを的確に伝えるのが今の自分の最大のテーマです。クランクインまであとわずかとなりましたが、残された日々で準備をしっかりと整え、楽しみながら撮影に臨みたいと思います」


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中江和仁
(なかえ・かずひと)
推薦団体=ぴあ PFF事務局  
制作プロダクション=パレード

 1981年生まれ。武蔵野美術大学卒業後に広告制作会社サン・アドに入社。CMディレクターとしてサントリーウーロン茶などを手がけるかたわら、自主映画を制作する。大学の卒業制作である「single」はぴあフィルムフェスティバルで観客賞を受賞し、バンクーバー国際映画祭など海外の映画祭でも上映される。2008年に制作した「String phone」はカンヌ広告祭のアジア版と言われるADFEST(アジア太平洋広告祭)のショートフィルム部門にてグランプリを獲得。2011年に制作した「蒼い手」は、世界各地の映画祭で上映中。

 嘘はつけない
 「私は普段広告の仕事で映像を作っています。CMの場合、いかにその商品を魅力的に見せるか好きになってもらうかを一番に考えます。チャーミングな物語を考え、映像に工夫をこらします。すべての中心には商品があります。映画の場合、CMを作る場合と段取りや撮影の仕方に違いはありません。ただ中心にあるのが商品ではなく、『何を伝えたいか』という制作者の感情です。映像に加工をし、斜に構えてみたところで、制作者の人間そのものが滲み出てしまいます。嘘はつけません。感情というものには、商品のような形はありません。その見えないものにスタッフやキャストが一丸となって向かい、あれやこれやと知恵を出しながら作っていく。みんなの熱い思いが、映画の中に目見える形となって現れる。その瞬間に出会えること、それがたまらなく楽しくて人々は映画を作るのだと思います。そして見ていただいた方々に我々の思いが伝わったのなら、そんなうれしいことはありません」


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藤澤浩和
(ふじさわ・ひろかず) 
推薦団体=協同組合日本映画製作者協会  
制作プロダクション=角川書店
(角川映画)

 1981年生まれ。関西学院大学社会学部卒業。大学在学中から自主映画を制作。卒業後「パッチギ!」(井筒和幸監督)にボランティアスタッフとして参加。その後上京し、助監督として崔洋一、金子修介、深作健太、矢口史靖、ミシェル・ゴンドリーなど多くの監督のもとで経験を積む。

 責任を感じつつも縮こまらないよう 「商業映画の助監督をしてきましたが、フィルムでの現場というのも本当に少なくなってきました。そんな中、監督させていただく事にきちんと責任を感じつつ、かといって縮こまらないようにやっていこうと思っています」



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やましたつぼみ

推薦団体=水戸短編映像祭 
制作プロダクション=アルチンボルド


 1977年生まれ。アメリカユタ州の大学で人体解剖学、進化学、環境学を中心に学ぶ。帰国後テレビ制作会社に入社、現在はフリーのTVディレクターとして散歩番組やドキュメンタリー、情報番組などを担当。そのかたわらで自主映画を制作し「小太郎」が水戸短編映像祭入選、「かみきれいちまい」がプエルトリコ国際映画祭最優秀短編ドラマ賞受賞など4カ国5都市の海外映画祭で上映された。

 とにかく全力を尽くす! 「『選ばれたのが自分で良かったんだろうか』という不安が何度も頭をよぎる反面、『選ばれたのが自分で良かった』という感激も時にこみ上げ、恥ずかしながら随分と混乱している状態なのだろうと思います。脚本作りは何度も何度も書き直し、キャラクターもその都度代わり、自分が何をしたいのか、ともすれば自分が誰なのかが分からなくなるまで考えたのですが、皆さんの協力とサポートの中、いつの間にか主人公が私と会話をしてくれる所までやってきました。

 この過程で、自分が映画を作りの天才だったら良いのに、と嘆いてしまうことが正直、何度もありました。ただ、今まで『映画を撮る』という行為は私にとって『自分でお金を貯めてやること』だったので、自分の些末なアイデアを相手にしてもらうだけで、ちょっと悦な気分であったことも打ち明けさせて下さい。そしていま、多くの方々がスタッフとしてこの映画に関わって下さり、完成に向けて力を注いでくれております。そして確実に物語の層がどんどん広がり、仕舞には主人公が『わたしの人生を無駄にしないでよ!』と後ろから蹴りを入れてくれている感じがします。

 『監督』と呼ばれることが多くなりました。私がその呼び名に相応しいのか、よく分かっておりません。呼んでくださる度に嬉しさと後ろめたさが込み上がるのですが、自分は幸せ者だというのは確かです。とにかく、いま私がとやかく言っても観て下さる人々の心に作品が響かなければ何も意味が無いので、自分が監督でも無能でも何者でもない者でも、『良い作品』を完成させるべく全力を尽くしたいと思います」


(写真はすべてVIPO提供)

>>「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」公式サイト

※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。


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