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インタビュー:MPA マイケル・C・エリス氏

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インタビュー:MPA マイケル・C・エリス氏

2011年11月10日

映画著作権侵害で日本経済に564億円の損失!

「具体的な被害を業界全体の共通認識に」


マイケル・C・エリス氏.jpg


 モーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)の日本における代表団体・日本映画著作権協会(JIMCA)は先ごろ、09年10月から10年9月の1年間に、映画の著作権侵害によって日本経済に564億円の損失があったという調査結果を発表した。同調査は、JIMCAが調査会社イプソス及びオックスフォード・エコノミクスに委託して行ったもの。

結果は以下の通り。

JIMCA_サイト用.gif


 これらの結果をもとに、日本の著作権侵害の現状等を、MPA アジア太平洋 プレジデント&マネージング・ディレクターのマイケル・C・エリス氏(上写真)、日本国際映画著作権協会(JIMCA)代表取締役の味村隆司氏に聞いた―。



小売業などにも影響は及ぶ

――リサーチの結果を興味深く拝見しました。日本の経済全体で564億円の売上が失われたということですが、エリスさんはこの結果についてどのような印象をお持ちですか。

マイケル・C・エリス氏(2).jpgマイケル・C・エリス(以下、エリス/左写真) 金額の大きさに関わらず、損失があるということ自体が問題です。それは、新しい投資に振り返られるべきものがなくなったと同じこと。しかもこの問題は、映画の製作だけに打撃があるわけではありません。映画産業は裾野が広いので、関連する全てに影響が出ると考えるべきだと思います。

味村隆司(以下、味村) 従来から著作権の侵害が行われていることは統計的にもハッキリしていたのですが、具体的な金額や雇用人数についてデータを示すことができたのは非常に意義があることだと思います。564億円という数字は、大きいなという印象があります。

――このデータを取られた経緯を伺いたいのですが。

エリス 外部の第三者的機関にデータを取ってもらい、分析してもらおうと、一般的に著名で確立された調査機関であるIpsos(イプソス)と、オックスフォード・エコノミクスに委託をしました。日本はアジア太平洋地域の中でもナンバーワン市場なので、市場のプラスマイナスの全てを完全に理解しておかなければならないと考えています。そして、もしそこで、損失が出ているなら、それがどこに流れているのか、どうやったらそれを止めることができるのかを考えるために調査しました。そしてデータが浮かび上がり、全容がわかると、ダメージは映画産業のみならず、経済全体への影響も避けられないということがわかりました。

――日本経済への影響を564億円とする一方、映画産業への直接の被害は235億円と出ています。300億円以上は他産業ということになりますが、具体的などの業界への被害が大きいのですか。

エリス 例えば小売業。映画産業はこういったところに色々な商品を提供しているので、影響があります。運送費なども含まれています。

味村 本調査には元データとして、総務省統計局が5年に1度公表している産業連関分析方法(05年度)を採用しています。産業連関分析は、ある産業が製品を生み出すために、他の産業からいくらの商品を仕入れたのか、あるいはサービスを仕入れたのか、という形で作られた統計です。この分析をもとに、映画産業の被害が、他の産業に対してどれだけ影響を及ぼしたのかを算出しました。

――世界的に見て、日本の被害額は大きいのでしょうか。

エリス 各国それぞれ事情が違うので比較はできません。国ごとに人口や市場規模、映画館の数も異なるため、国別を比較することは難しいのです。しかし、少なくとも今回の調査で、日本に関しては確たる数字がきちんと出ているので、これに関しては対策をきちんと取りたいと思います。



オンライン侵害は増加傾向

――2005年に、MPAはLEKという会社に委託して同様の調査をされていますね。この時は、日本経済全体の被害額が7億4000万ドルと出ています。今回の調査結果とは開きがありますが、これはどういった理由でしょうか。

エリス 分析の方法が違うので、決して被害が減ったというわけではありません。今回の調査は、6年前のものと比べると保守的な見方でとったリサーチなのです。例えば、お試し感覚で、違法なコンテンツをオンラインで視聴した後、「面白いからやはり映画館で観よう」と、映画館に足を運ぶ人もいます。こういう人は被害の数から取り除いています。05年の調査では、そういった数字も含まれていたのです。

――分析の違いによる差異とは別に、日本で映画の著作権侵害の数が減っているということは考えられませんか。

マイケル・C・エリス氏(3).jpgエリス 物理的な侵害は確かに減っているのですが、オンラインの窃盗は増えているので、全体で減っているとは言えません。これは日本だけの現象ではなく、世界中でも同じことです。

味村 かつてはVHSビデオやDVDの海賊版が映画の著作権侵害の中心だったのですが、私どもも警察等と協力し、かなり取り締まりが行われました。その結果、違法行為は大幅に減っており、特に露天商の被害はほとんどなくなりました。これに対してオンラインの侵害については、ブロードバンドが家庭に普及し、気軽にアップロードもダウンロードもできてしまうようになりました。海賊版のディスクだと、いかにも悪いことをしているという意識を持ちながら売買されていましたが、オンラインの侵害だと罪の意識を持たずに観られてしまいます。意識的なハードルが低いのが侵害の増加の大きな要因です。

――映画館での盗撮は減っているのですか。

エリス これに関しては、日本政府は断固とした態度を示し、立法化しました(映画盗撮防止法)。非常に大きな一歩が示されたと思います。政府がこういったゆゆしき状況を問題視し、改める姿勢を内外に広く示したことで、この10カ月くらいは盗撮という実態は把握されていません。

味村 音声のみを録音されたケースはこの1年で2件確認されていますが、エリスが申し上げた通り、映像を録画されたケースは確認されていません。

――海賊版DVDを露天で売ることは収益になるとわかるのですが、違法アップロードする者はどういった理由があるのですか。

エリス 主に2つタイプがいます。1つは、お金目当てにプロがやるもの。もう1つは、「かっこいい」からと自己満足でやるもの。

味村 日本の場合、件数的に多いのは後者です。日本のインターネット用語で、DVDの発売前の新しい作品をアップロードすると、「神」と呼ばれたりするようです。コメント欄に「神」と書かれるのが嬉しいというのが動機の1つのようです。

――前者の場合、具体的にどういう形で収益を得ているのですか。

エリス 広告収入で莫大な収益を得ている違法者が存在します。それに加えて、プレミアム料金を設定し、会員になればより早く作品を観られる権利を与えるなどし、お金を集めているようです。

――正規のビジネスでなくても、広告収入を得られるのですか。

エリス 実は、違法サイトのものの方が額は大きいのです。しかもコンテンツには元々お金を払っていないので、元手がいりません。



日本は法整備が遅れている

――著作権の法整備について、日本は進んでいると思われますか。

エリス いや遅れていると思います。他の多くの国ではデジタルの著作権侵害に対して法改正が行われており、違法作品のダウンロード=違法である、とハッキリしています。そして、それに関与するISPに関しても、きちんと処罰が及ぶようになっています。特に韓国は進んでおり、いまだに法改正は進んでいます。その結果、インターネット市場の正常化がかなり進み、合法的なビジネスがどんどん伸びてきています。

――日本も2010年1月に、著作権侵害の作品をダウンロードすることを違法とする改正著作権法が施行されましたが、罰則がないことが課題になっていますね。

エリス 著作権法第30条の修正ですね。それと同時に大切なことは、ISPがしっかり、断固として我々のサイドに立って、この問題に対処してくれることです。アメリカでは、音楽・映画産業が大手ISPと覚書(MOU)を交わして、違法行為者にはISP側から何百通、何千通という警告のメールを出す形をとっています。ISP側の協力的な姿勢はあるものの、そのプロセスは遅々としたもので、実質的な成果は上がっていません。

味村 日本には、権利者団体とISP側の両方が参加するCCIFという団体があり、特にP2Pでの著作権侵害者に対して、警告メールを発するという活動を行っています。しかしISP側からは、手間の問題と、「通信の秘密」に抵触しないかという意見が度々出されており、警告メールの数は月に200通ほど、実験的に通達する程度に留まっています。もっと速度を上げて取り組まなければならないなと思っています。

――韓国や、その他法改正が進んでいる国に比べると、日本のオンラインビジネスは発展途上という印象でしょうか。

エリス そう思います。逆に言えば、日本にまだまだ合法的なビジネスを展開する大きなチャンスがあると考えています。大切なことは、オンラインの上でも正しいものと、違法のものがあるという認識を、消費者の植えつけることです。

――一般消費者の認識を高める一番効果的な方法は何だと考えますか。

味村 やはり、著作権30条の改正で、違法ダウンロードに罰則をつけることが最も早く、かつ現実的な解決方法だと考えています。罰則をつけることで、片っ端から逮捕してほしいということではなく、「本当に悪いことなんだ」という意識を国民の間に広げることが目的です。例えば、車のシートベルト着用は昔は義務ではなかったため、「安全のために着用を」と呼びかけても、着用率は増えませんでした。しかし、道路交通法改正でシートベルト非着用に罰金が科せられると、今はほとんどの人が着用するようになり、結果的に安全性が向上しました。罰則が、意識改革を進める大きな要素になると思います。

――このデータを元に、映画業界としてはどういったアクションをとっていくべきかアドバイスはありますか。

エリス 映画・映像業界においては、オンラインの著作権侵害があると認識はあるものの、実際にいくらぐらいになっているのか、どの程度の金額的な被害が出ているのかは調査されていませんでした。まずは具体的な被害が発生していることを、業界全体で共通意識として持ち、その上で次にどのような手段を取るかということを考えていく必要があると思います。

味村 具体的な方策としては、先ほどから申し上げているように、違法ダウンロードへの罰則の付与、そして、その次の段階としては「サイトブロッキング」、あるいは「Graduated Response」といったISPの方々にも著作権侵害を止めるような手段を積極的にとって頂くという方向に進めていきたいと思います。(了)



マイケル・C・エリス氏(左)と味村隆司氏(右)(2).jpgマイケル・C・エリス氏(左)
 英国警察に2年、香港警察に15年在職。香港警察では民間犯罪部で6年、国を越えた犯罪および外国への犯罪人引き渡し要求を専門に取り扱っていた。この間に警視に昇格し、香港最後の提督クリストファー・バッテン卿の副官であった。その後、国際法律事務所Herbert Smithの訴訟部門で仕事をした後にMPAに入社。現在に至る。MPAでは、メンバー社の映画マーケットの安定と拡大を進めると同時に、数多くの調査、摘発及び法的行動の指揮を執っている。

味村隆司氏(右)
 昭和58年に日本ガイシ入社。その後、日本AT&T、ディレク・ティービーを経て、平成14年にカルチュア・コンビニエンス・クラブに入社。翌年、同社法務部グループ執行役員、平成18年同社管理本部法務担当オフィサー、同年6月デジタルハリウッド株式会社監査役を歴任し、平成23年1月1日より現職。




 

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