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TIFF『アジア三面鏡』世界向けアピール

【FREE】TIFF『アジア三面鏡』世界向けアピール

2016年11月01日
TIFF『アジア三面鏡2016~』シンポ、中央左からメンドーサ、行定、クォーリーカー監督 TIFF『アジア三面鏡2016~』シンポ、中央左からメンドーサ、行定、クォーリーカー監督

 第29回東京国際映画祭では初めての映画製作プロジェクト「国際交流基金アジアセンター×東京国際映画祭 co‐produce アジア・オムニバス映画製作シリーズ『アジア三面鏡』」を進めている。3シリーズの制作(1シリーズ3話)を行い、隔年の偶数年に発信していくもの。シリーズ第1弾『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』が26日にワールドプレミア上映。石坂健治プロデューサーによれば、「3つの物語がリンクしているように思えた」と感想コメントが多く集うなど、好評を博した。映画祭期間中には、26日に記者会見、27日にシンポジウムを開くなど、世界の報道陣にアピールした。

 シリーズ第1弾のテーマは、「アジアで共に生きる」。 “アジアで撮影すること” をルールに、日本より行定勲監督『鳩 Pigeon』、フィリピンのブリランテ・メンドーサ監督『SHINIUMA Dead Horse』、カンボジアのソト・クォーリーカー監督『Beyond The Bridge』が製作された。

 マレーシア・ペナン島で撮影を行った『鳩~』は、移住した日本人の老人(津川雅彦)と現地で生きる若い女性(シャリファ・アマニ)の物語。北海道・帯広が舞台の『SHINIUMA~』は、牧場で働く不法滞在のフィリピン人労働者(ルー・ヴェローソ)が強制送還される顛末を描いたヒューマンドラマ。自国カンボジア・プノンペンでロケを行った『Beyond~』は、日本カンボジア友好橋の建設を軸に据えた恋愛映画。日本人男性(加藤雅也)とカンボジア人女性(チュムヴァン・ソダチヴィー)の数十年を描いている。

 26日の記者会見では3監督に加えて出演者も登壇。津川は、「孤独で寂しい老人役だった。役づくりで無愛想にしていたら、アマニを泣かせてしまった。マレーシアではコミュニケーションを活発に取り、仲良くするスタイルだが、津川さんは全然話してくれないと。撮影が終わった後、うんと仲良くしました」とアジア・オムニバスならではの失敗談を笑顔で語った。これを受けて、アマニは、「津川さんが現場に訪れると緊張感が走る。ひとつの仕事を前に、情熱をもって献身的に取り組むことの大切さを学ばせていただき、とても感謝している」とリスペクトの念を込めて返した。

 ヴェローソは、「北海道はとても寒く、雪を初めて見た。日本人はいつも優しく、お辞儀の慣習も素晴らしい」と振り返り、「できれば日本で撮影する映画にもっと出たい。人々が国や宗教を越え、協力し合えるこのようなプロジェクトがもっと増えてほしい」と俳優の視点で訴えた。

 加藤は、「カンボジアの監督と仕事をするのは初めて。日本の監督や俳優をもっと知ってもらいたい。私もアジアのことをもっと知りたい」と力強く語り、ソダチヴィーは、「本作では日本とカンボジアの友好が描かれていて、さらなる架け橋になればと思う」と願いを込めた。

 27日のシンポジウムでは3監督が登壇。冒頭、メイキング映像が上映され、それぞれが現場での苦労話、学んだことを語った。

 行定監督は、「撮影スタッフも日本とマレーシアの混同だったが、違いが如実に出た。日本では緊張感を伴って臨むのが主だが、マレーシアではまず記念撮影を行い、団結を固める。日本人は忙しく動き、マレーシア人はゆっくりと動く。日本人は責任感からピリピリしていて、マレーシア人は楽しそうに撮影する(笑)」と説明し、「最初は足並みが揃わなかったが、(先述の)アマニさんが泣いた一件などを経て、お互いに歩み寄ることができ、良い影響を与えあった」と話した。

 一方のメンドーサ監督は、小規模のスタッフを連れて小型カメラで帯広ロケを行った。「私の母国フィリピンと、行定監督が撮ったマレーシアは似ていて、バケーションを楽しむ様な雰囲気で撮影をする(笑)」と語り、「帰国する日、大雪で足止めをくらった。その時、僕らは元々、小規模なチームだし、柔軟に対応してきたから大雪を撮影できた。本編にも使っている」とコメント。行定監督も、「あの雪は、日本人でも撮れない」と太鼓判を押した。

 クォーリーカー監督は、ロケで2本の橋を封鎖したエピソードを披露した。1990年の日本カンボジア友好橋を再現する上で、当時まだなかった隣接の橋を画面から消すためだ。市長に掛け合い、橋の電気を消灯、通行車両を別ルートに誘導した。大がかりなロケを行ったことについてクォーリーカー監督は、「どうしても実際の場所で撮影したかった。通行車両の迂回距離は10㎞にも及んだ。けれど、それだけのことをしたかった。撮影許可は夜8時から明け方4時までだった。全て撮影できたことはミラクルだと思う」と振り返った。

 3監督が同オムニバス企画の意義に触れる場面もあった。行定監督は、「アジアの映画界がもっと一緒になって、入り乱れていくべきだ」。メンドーサ監督は、「今回、規制の少ない自由な枠組みの中で取り組むことができた」。クォーリーカー監督は、「文化をリフレクトする(映す)こと自体が、相互理解に繋がっていくのではないだろうか」とそれぞれ感想を交えた。

 『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』は第29回東京国際映画祭でのワールドプレミア後、海外の国際映画祭を始めとする様々な場に展開していく。

※記事は取材時の情報に基づいて執筆したもので、現在では異なる場合があります。